北朝鮮の金正恩党委員長は今月7日から10日まで訪中し、習近平国家主席と会談するなどした。その際、金正恩氏が乗った専用列車は北朝鮮国内で時速20キロしか出せなかったと、韓国紙・東亜日報のチュ・ソンハ記者が伝えている。
その背景には、大量の死傷事故が繰り返し発生する、北朝鮮の劣悪な鉄道事情がある。
(参考記事:谷底に広がった凄惨な光景…北朝鮮で列車が転落「死者5000人」説も)脱北者であり、北朝鮮国内の事情に精通するチュ・ソンハ氏によれば、金正恩氏の専用列車は中国からの帰路、国境都市の新義州(シニジュ)から11時間かけて首都・平壌に到着したという。走行距離は、およそ225キロだから、1時間に20キロしか進めなかった計算になるわけだ。
北朝鮮の鉄道は、老朽化が著しい。日本の植民地時代に作られたレールや枕木を未だに使用している例も珍しくなく、列車が高速で走行するのは非常に危険だ。実際、施設の老朽化が、大惨事に繋がった例もある。
(参考記事:死者数百人の事故が多発する北朝鮮の「阿鼻叫喚列車」)昨年12月、韓国の調査団が南北の鉄道連結のため北朝鮮の鉄道の状況を調査した結果、開城(ケソン)から平壌を経て新義州を結ぶ区間では時速20キロから60キロしか出せず、国際列車が運行されている平壌以北の区間では時速60キロでの運行が可能な程度だったという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面平壌から新義州まではその気になれば時速60キロまでは出せるのだろうが、最高指導者を乗せた専用列車は「万が一」を考えて絶対安全なスピードに抑えたものと考えられる。
ちなみに、5000キロ以上に及ぶ北朝鮮の鉄道路線は8割が電化されているが、同国は1990年代以降の発電設備の老朽化、そして深刻な経済難により、極度の電力不足に陥る。そして高い電化率がアダになり、鉄道はマヒ状態に陥ってしまった。例えば首都・平壌から北部の恵山(ヘサン)までは、時刻表通りなら23時間ほどで到着するのに、実際には10日もかかった事例などが伝えられている。
ただ、デイリーNKの内部情報筋によると、最近の北朝鮮の鉄道運行は比較的円滑になっているという。皮肉にも、従来は大部分が輸出されていた石炭が国際社会の経済制裁で輸出できなくなったことで、国内での消費量に回されるようになり、電力の生産量が増えたことがその理由だ。
(参考記事:通勤列車が吹き飛び3000人死亡…北朝鮮「大規模爆発」事故の地獄絵図)