北朝鮮が、昨年12月17日に国連総会本会議で採択された人権侵害への非難決議に反発しているが、かつてと比べると様子がやや違っている。
決議は、政治犯収容所の閉鎖と全ての政治犯の釈放を要求。北朝鮮の人権に関する国連調査委員会が指摘した拷問や非人道的な待遇、強姦(ごうかん)、公開処刑、強制労働など各種の人権侵害行為を取り上げ、深刻な憂慮を表明したものだ。同様の決議が、14年連続で採択された形だ。
(参考記事:手錠をはめた女性の口にボロ布を詰め…金正恩「拷問部隊」の鬼畜行為)これに対して朝鮮労働党機関紙の労働新聞は25日付の論評で「重大な政治的挑発」だと非難。また民主朝鮮27日付は「米国と追随勢力による謀略」だとする論評を掲載した。
しかし、これらはいずれの個人の署名入り論評で、北朝鮮が発信するメッセージの中では強度の低いものだ。以前は政府声明など、ずっと高いレベルから発信されるメッセージで、より強力な非難を行っていた。
たとえば2016年には、金正恩氏が1月1日に発表する施政方針演説「新年の辞」の中で、「(米国が)追随勢力を押し出して反共和国『人権』謀略騒動に狂奔しました」と言及。また、同国政府が水爆実験の成功を発表した同年1月6日の「特別重大報道」でも、「米国は敵対勢力を糾合してありとあらゆる対朝鮮経済制裁と謀略的な『人権』騒動にこだわり、われわれの強盛国家建設と人民生活の向上を妨げて『制度の崩壊』を実現しようと血を食んで襲いかかっている」と非難した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面当時と今の違いはどこから来ているのか。それはおそらく、核武装によって国防力を格段に向上させた自信と、米国を対話の場に引っ張り出すのに成功したことによる余裕からもたらされているのだろう。
また、人権問題での非難に強く反発することで、かえって注目を集めてしまうのを避けようとしているのかもしれない。
ただ金正恩氏も、人権問題で完全に「ポーカーフェイス」を貫くことはできないようだ。国際人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が昨年10月末、北朝鮮で女性に対する性暴力がまん延していることを告発する報告書「理由もなく涙が出る」を発表した際には、北朝鮮メディアは「我々の悪魔化を狙ったものだ」などとして、よりムキになって反発した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面同報告書は、被害女性らの血のにじむような証言の数々を収録したもので、読むほどに愕然とさせられる内容だ。
もしかしたら金正恩氏は、こうした現場の実態を本当に知らないか、あるいは薄々知っていても認めたくないために、強い調子で打ち消さざるを得ないのかもしれない。
果たしてこのように分析しているのは、筆者だけだろうか。仮に、世界の人権団体に同じ見方をしている人々がいるなら、この問題こそが金正恩政権の弱点であるととらえ、今後いっそう、追及が強まるかもしれない。