北朝鮮に拘束され米国に帰国直後に死亡した米バージニア大学生、オットー・ワームビアさん(当時22歳)の両親が北朝鮮に賠償を求めていた訴訟で、米ワシントンDCの連邦地方裁判所は24日、北朝鮮に対し5億100万ドル(約552億円)の支払いを命じた。
ワームビアさんは2016年1月に北朝鮮で拘束され、2017年6月に昏睡状態で米国に帰国。その直後に死亡した。両親は今年4月、北朝鮮に賠償を求める訴訟を起こしていた。
両親側は、北朝鮮から帰国したワームビアさんの歯列が大きく変形していたことなどを根拠に、ワームビアさんが北朝鮮で拷問を受けたと主張していた。上の写真は北朝鮮に行く前のワームビアさんのエックス線写真だ。問題は下の歯列の中央の2本の歯なのだが、この写真ではきれいな歯並びであることがわかる。
しかし、ワームビアさんの主治医が陳述書に添付して連邦地裁に提出したスキャン写真を見ると、この2本の歯が、不自然に口の内側に移動しているのだ。
(参考記事:【写真】大きく変形したワームビアさんの歯列)判決文と付属の意見書(memorandum opinion)に基づく米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)の報道によれば、地裁のベリル・ハウェル判事は判決文で「北朝鮮はワームビア氏の拷問、人質、超法規的な殺人に責任がある」とした。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面また意見書では、ワームビアさんの主治医だったダニエル・カンター博士が書面陳述を通じ、死因について「脳への血液の供給が5~20分間にわたり止まったか、あるいは大きく減少したため」との結論を示した点に注目。また、「北朝鮮の拷問手法である水拷問と歯を折る拷問、電気拷問は呼吸中断につながり得るものだ」とする、ロバート・コリンズ北朝鮮人権委員会先任顧問の陳述書を引用しているという。
ハウェル判事はさらに、ワームビアさんの足に大きなケガがある点と、前述した歯の位置の変化についても、拷問が加えられた事実を示すものと認めたという。
一方、北朝鮮政府はワームビアさんの死因はボツリヌス中毒症、および睡眠薬の摂取であるとし、拷問の疑いは否定している。ただ、同政府は米国での民事訴訟で、正式に抗弁する手続きを取らなかった。このことは今後の米朝対話に、大きな禍根を残してしまった可能性がある。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面VOAによれば、米国にはテロ支援国を民事訴訟の相手とすることを可能にする「外国主権免除法(FSIA)」という法律がある。ワームビアさんが拘束されてから死亡するまでの期間、北朝鮮はテロ支援国の指定から外れていた。しかしハウェル判事は意見書で、ワームビアさんの事件が北朝鮮のテロ支援国再指定につながった事実に言及し、同法により今回の訴訟が成立したことを明らかにしているという。
さらに米国には、テロ支援国から被害を受けた国民に対し、政府が「米テロ支援国被害基金」を通じて賠償金を支払う仕組みがあるという。筆者はこの制度の中身について詳しくないが、米国政府が賠償金の一部を肩代わりするものであると思われる。
仮に、ワームビアさんの両親がこの仕組みを通じて賠償金を受け取ることになれば、北朝鮮は米国政府に債務を負うことになるわけだ。米国が、何事においても法律を厳格に運用するお国柄であることを考えると、北朝鮮が今回の問題で生じた債務を支払わないことが、今後の両国の対話で新たなブレーキになってしまう可能性があるということだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮は、法治がきわめておざなりにされている国だが、だからこそ、米国の厳格な法治主義を理解できていないのではないだろうか。