「下剤を飲ませ水を一滴も与えず政敵抹殺」北朝鮮の権力闘争

張成沢粛清を振り返る(7)

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7年前の12月17日に死亡した北朝鮮の金正日総書記の葬儀では、現在の金正恩朝鮮労働党委員長のほか、7人の党・軍幹部が霊柩車を護衛した。

その中の1人、金正恩氏の叔父でもある張成沢(チャン・ソンテク)元党行政部長はこの2年後に処刑されるわけだが、粛清により姿を消したのは彼ひとりではない。ともに霊柩車を護衛した李英鎬(リ・ヨンホ)朝鮮人民軍総参謀長(当時)と禹東則(ウ・ドンチュク)国家安全保衛部第1副部長(同)の2人は、張成沢氏との権力闘争に敗れ葬り去られたとされている。

総参謀長は軍の戦闘指揮官としては最高位の職責であり、国家安全保衛部(現国家保衛省)は恐怖政治を支える秘密警察だ。

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韓国の情報機関・国家情報院次長や大統領補佐官を歴任した羅鍾一(ラ・ジョンイル)氏の著書『張成沢の道』によれば、李英鎬氏は金正日氏から「銃で後継者(金正恩氏)を保衛せよ」の命を受けており、禹東則氏もやはり「情報と保衛部の機構で後継者を保衛すべし」との使命を与えられていた。

彼らは勢力を増す張成沢氏をけん制したが、同氏の反撃の方が素早く強力だった。張成沢氏が率いる党行政部は、人民保安部(警察庁=現人民保安省)と最高検察所の監督機関だ。政敵の不正の証拠をつかむのは容易い。張成沢氏により告発された禹東則氏は自殺に追い込まれ、李英鎬氏は逮捕された。

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張成沢氏が除去した政敵はほかにもいる。韓国の李明博元大統領の回顧録には、次のような記述がある。

「2011年初め、アメリカと中国から驚くべき話を聞かされた。我々と接触した北朝鮮の高官が公開処刑されたというものだった」

この高官の名は、柳敬(リュ・ギョン)という。かつて小泉訪朝を巡り日本側と水面下で接触し、「ミスターX」としても知られた。柳敬氏は体制への忠誠心が厚く、金正日総書記から絶大な信頼を得ていたとされる。それでも、些細な報告漏れを張成沢氏に突かれ、罠にかけられ家族もろとも銃殺されたと言われる。

(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」…残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認

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さらに1990年代の大粛清「深化組事件」では、やはり張成沢氏の政敵だった文聖述(ムン・ソンスル)中央党本部党書記も抹殺された。文聖述氏は下剤を飲まされた上で3日間、水を一滴も与えられない拷問を受けた末に、留置場の壁に頭を打ち付けて自殺したと言われる。

(参考記事:血の粛清「深化組事件」の真実を語る

このように張成沢氏によって倒された政敵たちと、張成沢氏の最期には明らかな違いがある。粛清された幹部らは闇から闇へ葬られただけで、その「罪」が公開の場で非難されたことはない。張成沢氏のように、党の会議で断罪され、その罪状を党機関紙が長々と書き連ねた例はほかにないのだ。

この違いはどこから来たのか。それはまさしく、張成沢氏が最高指導者である金正恩氏の「政敵」と見なされたことを意味するのだ。(つづく)

(参考記事:【対北情報戦の内幕】外務省の超極秘「日朝連絡ルート」を血眼でスパイする公安警察