デイリーNKジャパンは最近、「コンピュータに入力してはならない電子ファイル目録」と題された北朝鮮の内部文書を入手した。2015年5月の日付が入ったもので、韓国誌・月刊朝鮮11月号はこれを、北朝鮮の体制に不都合な映像・音楽作品を取り締まるタスクフォース「109常務(サンム)」が作成したものだと断定している。
内容は視聴が禁止された映像・音楽・ソフト類のリストで、列挙されたタイトルはざっと300以上にもなる。その多くは、体制に「有害」と見なされた俳優の出演しているものだ。
(参考記事:機関銃でズタズタに…金正日氏に「口封じ」で殺された美人女優の悲劇)その中には、2013年12月に処刑された金正恩朝鮮労働党委員長の叔父・張成沢(チャン・ソンテク)元党行政部長の「関係者」とみなされた俳優たちの出演作が、多数含まれている。
一時は北朝鮮の権力中枢でも「実力ナンバーワン」と言われた張成沢は、複数の女優を愛人にしていたと言われる。その筆頭は、「喜び組」出身で元トップ女優のキム・ヘギョン氏だが、彼女の出世作である「幹は根から育つ」もまた、前述したリストに含まれている。
(参考記事:【写真】女優 キム・ヘギョン――その非業の生涯)キム・ヘギョン氏は張成沢氏の死後、政治犯収容所へ送られたという。だが、張成沢の巻き添えになって粛清された女優の中には、彼の愛人でも何でもなかった人もいる。代表的なのが、2007年にカンヌ映画祭でも上映された北朝鮮映画「ある女学生の日記」に主演した「清純派女優」のパク・ミヒャン氏だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面同作品に出演した彼女の映像を見ると、実にういういしい。このように世界的に顔を知られた女優が、一夜のうちに姿を消してしまうのが北朝鮮社会の現実なのだ。
(参考記事:【動画】北朝鮮の女子高生「タイマン」場面…映画『ある女学生の日記』)それも、彼女には何の落ち度もないにかかわらずである。彼女が夫や幼い息子とともに政治犯収容所に送られた理由は、夫の父である前駐スウェーデン大使のパク・クァンチョル氏が、張成沢氏と近しい間柄だったというだけのことだ。
金正恩氏はそこまでして、張成沢氏の存在の痕跡を徹底的に消し去ろうとした。しかし、いくら「禁止リスト」に載せて厳しく取り締まったところで、多くの国民に親しまれた俳優たちの記憶を、社会から完全に除去することなど不可能だ。
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そしてむしろ、金正恩氏がそのようにムキになればなるほど、権力中枢の歪んだ内実を国民に知らせることになってしまったのである。