消えた北朝鮮の「ピンクレディー」…看板アナウンサーの行方

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英紙・テレグラフ(The Telegraph)が4日、北朝鮮の朝鮮中央テレビのアナウンサーである李春姫(リ・チュニ)氏が引退すると伝えた。李春姫という名前に聞き覚えがなくても、北朝鮮のテレビ報道で独特の抑揚をつけながらニュースを読み上げるアナウンサーといえばおわかりになるだろう。

李春姫氏のアナウンサー歴は約50年と言われている。半世紀近く北朝鮮のニュースを伝えてきたが、特にこの10年間は北朝鮮にとって重要なニュースを読み上げた。とりわけ伝説となっているのが2011年12月17日の金正日総書記の死去を伝える報道だ。

実はこの時期、約50日間にわたって李春姫氏の姿がテレビで見られなくなり少し話題になった。北朝鮮では、過去にも有名な芸術家がスキャンダルにまみれて無慈悲に処刑されている。いくら朝鮮中央テレビの看板アナウンサーで報道に携わる立場とはいえ、筆者は「もしや彼女も」との考えがよぎった記憶がある。

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しかし、12月19日の正午からはじまった「特別報道」に李春姫氏は黒いチマ・チョゴリ姿で登場。涙ぐみながら金正日氏の死去を伝えた。実に61日ぶりの登場だった。このことから、実は金正日氏はかなり前から危ない状況にあって、彼女は死去を伝える準備をしていたのではないかという見方もある。

この報道でブレイクした李春姫氏は、今では金正恩党委員長や妹の金与正(キム・ヨジョン)氏に次ぐ著名な北朝鮮人と言っても過言ではない。それだけに彼女がアナウンサーを引退するというのならちょっとしたニュースだ。しかし、テレグラフ紙の報道には確固たる根拠があるわけでもないようで、金正恩氏がめざすメディア戦略にマッチしないから引退するのではと分析しているだけのようだ。

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同紙は、李春姫氏がピンク色のチマ・チョゴリを好んで着ることから「ピンクレディ」とし、「北朝鮮放送に『ピンクレディ』が登場すると悪いニュースが伝えられる」と伝えた。報道内容はともかく、彼女のアナウンサーとしての実力たるや他の追随を許さない。口調や抑揚だけではない。他のアナウンサーに比べ、手元の原稿を見る回数も少なく、真っ正面を見ながら長いニュースを一気に読み上げる。映画俳優出身という経歴をもつだけに、報道を伝えるというよりも、演技をしているつもりなのかもしれない。

テレグラフが伝えた引退情報の真偽はともかく、高齢ゆえにいつ画面から去ってもおかしくはないだろう。2012年には、中国メディアのインタビューに応え、「引退して後進の指導にあたりたい」と述べている。また、金正恩時代に入って、北朝鮮のテレビ放送は明らかに変化してきている。アナログ放送からデジタル放送になっただけでなく、アナウンサーの容姿やニュースの伝え方も確実に洗練されてきている。テレグラフの分析もまったく的外れというわけではない。

彼女に代わって登場するアナウンサーがどのようなスタイルで報道を伝えるのかは、金正恩氏の指向を窺い知るうえで重要なことである。

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ところで北朝鮮でアナウンサーになるにはどうすればいいのだろうか。元朝鮮中央TVの職員のチャン・ヘソン(1996年に韓国入国)さんによると、「朝鮮中央TVのアナウンサーになるには、針の穴ほど狭き門を突破しなければならない。出身成分(身分)が良い事も看板アナウンサーの条件だ」と述べる。ニュースの読み上げを勉強する際、最も重要なのは「気迫」だと教え込まれる。

チャン氏によると、看板アナウンサーになれば「一般民衆がお目にかかれないキジや鹿の肉などの食材に加え、スーツや工業製品なども党が直接提供する。また、彼らは金日成・金正日の誕生日、党創立記念日、国家創立記念日の4度にわたって特別な配給も受ける」という。

北朝鮮でもアナウンサーは花形職業のようだ。