米シンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)は12日、北朝鮮が公表していないミサイル運用基地のうち、13カ所を特定したとする報告書を発表。「非核化交渉における申告、検証、廃棄の対象となるべきだろう」と指摘した。

北朝鮮の核兵器を有効な「戦力」たらしめているのは、運搬手段である弾道ミサイルだ。非核化交渉においてはCSISの言う通り、北朝鮮に弾道ミサイルを廃棄させなければならない。

しかし、その作業は簡単ではない。金正恩党委員長は非核化を約束しているものの、「武装解除する」とまでは言っていないのだ。

ところがこの状況を巡り、おかしな報道が出ている。米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)はこの報告書を根拠に北朝鮮が対話の裏で「大がかりな欺瞞(ぎまん)戦術を行っていることを示している」と報じた。

これに対し、韓国青瓦台(大統領府)の金宜謙(キム・ウィギョム)報道官は13日の定例会見で、「北がこのミサイル基地を廃棄すると約束したことはなく、当該基地の廃棄を義務付けるいかなる協定も結んだことはない」と指摘。また、CSISが報告書で触れたミサイル基地について「未申告の基地」と表現したことに対しても、「(北朝鮮がミサイル基地を)申告をしなければならない協約も、交渉も存在しない。申告を受ける主体もない」と述べた。

北朝鮮との対話姿勢が「前のめりに過ぎる」と懸念され、日米との間に溝がある韓国だが、この点に関しては、彼らの言い分が正しい。

金正恩氏は弾道ミサイルを廃棄する意思を明示したことはなく、現時点では恐らくその意思もないだろう。だからこそ非核化交渉は難しいのであり、また交渉をする意味もあるのだ。

特に、弾道ミサイルを廃棄させるためには、日本と北朝鮮の関係も重要になる。北朝鮮メディアは最近、自衛隊の「脅威」を強調しており、それを理由に弾道ミサイルの全廃を拒む可能性があるからだ。

ともかく、北朝鮮の弾道ミサイル廃棄を実現するためには、まずは厳しい現状認識が必要だ。NYTは、対立するトランプ米大統領を非難するために上記のような表現を用いたのかもしれないが、そのような「ためにする報道」は有害でしかない。

問題なのはNYTだけではない。朝日新聞はCSISの報告書について報じた14日付朝刊記事で「米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は『衛星写真は北朝鮮が大がかりな欺瞞(ぎまん)戦術を行っていることを示している』と指摘した」と無批判に引用。

さらには「トランプ米大統領は北朝鮮の非核化をめぐる交渉が順調に推移している点を強調するが、核ミサイル能力が『温存』されている実態が浮き彫りになった」「トランプ氏は北朝鮮の核問題を巡り外交的成果を再三強調する。しかし、北朝鮮の脅威は残っていることになり、トランプ氏の主張も説得力を欠きそうだ」などと強調。バイアスのかかり方はNYT以上にも見える。

もう一度言うが、金正恩氏は非核化を約束しながらも、「武装解除する」とまで言っていない。また北朝鮮が何を約束しようが、国防の権利を失うわけではない。北朝鮮軍は食糧の横流しや性的虐待の横行で軍紀が乱れきっており、弾道ミサイルを運用する戦略軍やサイバー部隊、特殊部隊などの一部エリートを除き、使い物にならない状態にある。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

そんな状態で核を捨てるとなれば、国防に不安を感じ、弾道ミサイルに固執する心理が働くのはある意味で当然だ。それでも廃棄を飲ませなければいけないところに、問題の難しさはあるのだ。