北朝鮮当局は今月初め、国内外の音楽や映像作品70余りを「不純宣伝物」に指定し、視聴や上映、配布を禁止する措置を取ったという。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によれば、リストに挙がった歌の中には「母の声」「党に従い最後まで」「正日峰の雷鳴」などがある。いずれも、歌詞の内容は金王朝や朝鮮労働党を礼賛するものだ。それにもかかわらず禁止曲に指定されるとは、いったい何があったのか。

まず考えられるのが、作品に関わった芸術家の行動が、金正恩党委員長の逆鱗に触れたのではないかということだ。2015年3月、金正恩氏の妻である李雪主(リ・ソルチュ)氏も所属していた銀河水管弦楽団のメンバー4人が、韓国情報機関のスパイと関係を持ったとされ、平壌郊外の「美林ポル」という場所で銃殺されたとされる。

メンバーらは、遺体が原形をとどめないほど凄惨な殺され方をしたと伝えられている。

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前述した禁止曲のなかには、意外なことに「モランボン楽団」のナンバーも含まれている。モランボン楽団は金正恩氏の指示により、2012年に創設された。国家的な記念日の度に公演を行い、北朝鮮全土を巡るツアーも行ってきた。金正恩氏がこよなく愛するガールズグループであり、昨年10月に開催された朝鮮労働党中央委員会第7期第2回総会では、モランボン楽団の団長である玄松月(ヒョン・ソンウォル)氏が、党中央委員会委員候補に抜擢された。

この人事に関して「金正恩氏が喜び組を側近に抜擢!」という見方もあったようだが、本来、「喜び組」とは最高指導者の身辺補佐をする女性たちの総称だ。「喜び組」の女性たちはそれぞれがマッサージ、スポーツ、芸術などの専門分野を持っており、夜の奉仕をする特別な組織も存在するとも言われている。

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玄松月氏は「喜び組」ではないとしても、かつては金正恩氏の「元カノ」と伝えられたこともあり、金王朝のごく近くで仕えてきたことは間違いない。今年2月の平昌(ピョンチャン)冬季五輪に合わせ、北朝鮮の芸術団が韓国に送り込まれたが、その団長が玄松月氏だった。

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玄松月氏も彼女が率いるモランボン楽団も、金正恩時代を代表する芸術家集団と見られてきただけに、禁止曲リストに同楽団の曲が含まれているとしたら、特別な背景があるのは間違いない。実際、あれだけ頻繁に行われていたモランボン楽団の公演は2月以後、ピタッと止んでしまった。

そして今月、朝鮮労働党の創建73周年を記念して平壌市内である劇場が開館された。その名は「三池淵管弦楽団劇場」。今年2月に韓国に派遣された楽団の専用劇場である。これまで北朝鮮のアイドルグループとして君臨してきたモランボン楽団ではなく、なぜ三池淵管弦楽の専用劇場がつくられたのか。金正恩氏が寵愛する「アイドルグループ」の周辺で、何かが起きているようだ。