米国が今月中旬にオーストリア・ウィーンでの開催を提案していた実務者協議に北朝鮮が応じない中、韓国では「金正恩党委員長の妹の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長が近く訪米するのではないか」との観測が浮上している。

兄を厳しく叱る

きっかけは、ポンペオ米国務長官の発言だ。同氏は19日、米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)とのインタビューで、「10日以内にここで、私と(北朝鮮の)カウンターパートの間で高官級会談が開かれることにかなり期待している」と語った。

このインタビューが収録されたのはメキシコの首都・メキシコシティだ。だが、ポンペオ氏が「ここで(here)」と語ったのは、北朝鮮側とメキシコで会うという意味ではなかろう。「自身が5回目の訪朝をするのではなく、こんどは北朝鮮側が訪ねてくる」という意味であろうというのが、韓国メディアの解釈だ。

だとしたら、北朝鮮からは誰が来るのか。ポンペオ氏のカウンターパートとしてまず名前が浮かぶのは金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長だ。しかし今月7日にポンペオ氏が訪朝して金正恩氏と会談した際、金英哲氏は同席せず、代わりに兄の隣に座ったのが金与正氏だった。

金与正氏は、金正恩氏の国内での「複雑な動線」を管理してきた側近中の側近であり、最近では対韓国の特使も任されるほどのポジションにある。

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時には、最強の独裁者である兄のことを厳しく叱り、パーティー狂いをいさめることもあるとされる。

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今、彼女が訪米してポンペオ氏と会談するのも、「格」の面ではあり得ないことではない。

また、金正恩氏は米国との対話の停滞を打破するため「世論対策」が必要であることを十分に認識している。北朝鮮国営の朝鮮中央通信は20日、「米国は二つの顔でわれわれに対するのが恥ずかしくないのか」と題した論評を配信。トランプ米大統領が米朝対話の順調さをアピールする一方で、政府としては制裁維持を強く打ち出していることを「米国の二面主義だ」と痛烈に批判した。

しかし同時に、論評は「われわれは米国の11月議会中間選挙を控えているホワイトハウスの『困った事情』と『苦しい立場』を知らないのではない」として、トランプ政権が北朝鮮に懐疑的な慎重派に配慮しなければならない事情に理解を示してもいる。北朝鮮としては、珍しい物分かりの良さだ。

確かに、中間選挙(11月6日投開票)前に金与正氏が訪米し、ポンペオ氏との会談で何か新しい進展を示すことができたら、トランプ政権と共和党にとっては追い風になるかもしれない。また、北朝鮮側はこの時期を過ぎると、米国に要人を送りにくくなる。

欧州連合(EU)と日本は現在、年末の国連総会本会議での採択に向け、北朝鮮の人権状況改善を求める決議案を準備中だ。決議案はまず、来月15~14日の国連総会第3委員会で討議される。北朝鮮はこれに強く反発しており、来月から年末にかけて、ニューヨークの国連本部を舞台に人権問題を巡る「バトル」が予想されるのだ。

さらに、米上院外交委員会は北朝鮮に政治犯収容所の撤廃を求める決議案を通過させており、おそらく中間選挙後には、これが議会で採択されるだろう。

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これらの状況を考えてみると、金与正氏が訪米するなら、タイミングは確かに今が「ベスト」だ。果たして、「白頭の血統」を引く金王朝メンバー初の訪米は実現するのだろうか。