北朝鮮で過熱する「金のなる木」の争奪戦

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いまだに国際社会の制裁下に置かれている北朝鮮では、老若男女問わず外貨稼ぎに動員されている。子どもたちは学校から様々な課題を押し付けられ、夏休みがふっとんでしまうほどだ。

国連安全保障理事会の制裁措置では、北朝鮮のほとんどの産品が禁輸とされているが、かろうじて自由に輸出できるのが農産物だ。中でも、中国で人気のあるものが「儲かるアイテム」として脚光を浴びているが、そのひとつがちょうど旬を迎えた「松の実」である。

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薬としても食材としても人気の高い松の実の採取は毎年9月から始まるが、殻がついたままのものでも1キロ20元(約330円)から40元(約660円)で輸出される。

松の実がなる松の木(チョウセンゴヨウ)が多く生えている松林は、市や郡の山林経営所が管理している。また、現場に入って直接管理しているのは山林監督員だ。つまり、国の所管なのだが、松の実については国有財産扱いとなっていない。

山林監督員は、自分の管轄区域にある松林で松の実を取る権利を、工場や企業所に売り渡す。また、山林監督員の目の及ばない山の奥深くにある松林では、地域住民が松の実を採取して、外貨稼ぎ事業所に売って現金収入にしてきた。

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松の実の採取が手堅い収入源として脚光を浴びるようになるにつれ、「松の実利権」がさらなるカネを生み出しているというのが、両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋の話だ。

従来の工場や企業所になり変わって、朝鮮労働党や行政機関の幹部やトンジュ(金主、新興富裕層)が、松の実採取権を独占するようになったのだ。

山林経営所は「松の実の採取を委託する」との名目を掲げ、幹部やトンジュから多額のワイロを受け取って採取権を与える。幹部やトンジュは、給料を払って人を雇い、松の実を採取させたとしても、収穫を外貨稼ぎ事業所に売ればかなりの儲けが手元に残る。しかし、松の実が取れる松林が無限にあるわけではないので、幹部やトンジュの間で競争が起こり、ワイロ――つまりは権利金の相場が上がる。

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松の実が多くなる10年から20年の松の木の場合、1ヘクタールあたりの権利金は2000元(約3万3000円)。収穫期の前には2倍に跳ね上がるという。

あまりにも大々的に松の実採取をやったために、苦しい立場に追い込まれた幹部もいる。

「数年前、金正淑(キム・ジョンスク)郡の党幹部が松の実の収穫権を得て大儲けしたが、1銭たりとも国庫に入れなかったことがバレて、解任された」(情報筋)

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そんなことがあっても、幹部やトンジュは家族や知人を動員して松の実の採取に励んでいる。北朝鮮の山奥は「ゴールドラッシュ」ならぬ「松の実ラッシュ」に沸いている。しかし、今まで細々と松の実を取っていた村人は、数少ない現金収入を絶たれてしまった。

「高さ20メートルの松の木に登って命がけで松の実を取っていたが、もはやそれもできなくなった」(住民の声)

このように数少ないアイテムを巡って、権力者、金持ち、庶民が争奪戦を繰り広げるのはよくあることだ。

例えば、中国で高く売れるブルーベリーの一種、「トゥルチュク」(和名クロマメノキ)を巡っては、政府、貿易会社、住民の間で熾烈な争奪戦が毎年のように繰り広げられている。

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中国との国境に面した新義州(シニジュ)市民は、鴨緑江の川原に生えている「葦(アシ)」を採取、中国に輸出して現金収入にしている。

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さらに、大量に生えている大麻を中国に輸出して儲ける人もいる。

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