人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

北朝鮮の金正恩党委員長は2014年2月、6月、そして2015年1月1日に平壌の孤児院の育児院、愛育院を訪れ、子どもたちの福祉に力を入れている様子を見せた。北朝鮮メディアは、金正恩氏の施設訪問の様子を大々的に報道し、「元帥様の人民愛」を宣伝してきた。

しかし、宣伝とは裏腹にその内実は極めて劣悪だ。半ば強制的に収容された子どもたちは、厳しい規律、虐待、食糧不足に苦しめられ、逃亡を余儀なくされた。

(関連記事:北朝鮮で孤児院教師が少女17人を性的虐待、怒る市民たち「厳罰を」

逃亡した子どもの多くはコチェビ(ストリートチルドレン)となり、生き延びるため集団窃盗に走って不良化する者も少なくない。彼らを収容する中等学院という施設もあるが、そこでも逃亡は繰り返され、半グレやヤクザへと「成長」してしまう例もある。

(参考記事:金正恩体制に頑強に抵抗する北朝鮮の「不良少年」たち

このように孤児院、中等学院、養老院(老人ホーム)などの福祉施設は極めて劣悪な状態に置かれていたが、最近になってようやく改善の兆しが見えてきたと、デイリーNKの内部情報筋が伝えてきた。

この情報筋は最近、平壌郊外にある養老院を訪れたときの感想を次のように述べた。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

「親戚に会いに郊外の養老院に行ってきたが、施設はかなりよかった。40人あまりの老人がそこで暮らしているが期待していた以上で、食事、衣類、寝具などもよかった」

食卓には白米、魚、野菜が出され、一般庶民よりマシだというのが情報筋の評価だ。男性らは釣りや将棋で暇つぶししたり、近所の農場で働いたりして老後を楽しんでいる。

収容施設の改善は他の地域にも見られる。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

「自分が行った平城(ピョンソン)や新義州(シニジュ)など地方都市の愛育院、養老院の食事も以前と比べて大きく改善した」(情報筋)

しかし、中小都市の施設は依然として劣悪な状態だ。

黄海南道(ファンヘナムド)の内部情報筋によると、道庁所在地の海州(ヘジュ)にある各施設は建物が立派だが、食事や衣類の配給は劣悪だという。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

政府は地方都市の施設にもコメ、肉、魚を供給しているが、職員に横流しされてしまうことが多い。それを防ぐために職員向けの食料配給も行っているが、根絶には至っていない。まともな給料をもらえていない職員が現金収入を得るには物資の横流しが最も手っ取り早いからだろう。

(参考記事:金正恩氏の「おかず大作戦」が救った北朝鮮軍の危機

また、黄海北道(ファンヘブクト)銀波(ウンパ)の養老院の管理者は、「暇つぶし」の名目で老人を動員し、近隣の農場でわら縄を綯(な)わせている。少しでも文句を言えば「行くあてもなくひとりで暮らしていたころよりはマシではないか、贅沢を言うな」と叱られるという。そしてわら縄の対価が、管理者の懐に入ることは言うまでもない。

以前は、収容された子どもたちが、臓器売買組織の餌食になったとの報道もあったが、そのような状況がいまだに続いているのか否かは定かでない。

(参考記事:北朝鮮の孤児院に「臓器密売」疑惑が浮上

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記