北朝鮮の金正恩党委員長は7日、訪朝したマイク・ポンペオ米国務長官と平壌の百花園(ペッカウォン)迎賓館で会談し、トランプ米大統領との2回目の首脳会談の早期開催で合意した。

これ自体は既定路線だからサプライズはないが、会談の様子に気になる点があった。北朝鮮側から会談に同席したのが、ポンペオ氏のカウンターパートである金英哲(キム・ヨンチョル)朝鮮労働党副委員長ではなく、金正恩氏の妹である金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長と通訳だけだったのだ。

金与正氏は、金正恩氏の国内での「複雑な動線」を管理してきた側近中の側近であり、最近では対韓国の特使も任されるほどのポジションにある。

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しかしいま、こういう形で彼女が対米外交の前面に出てきたことには、何らかの「意味」があるのではないかと勘繰らないわけには行かない。

今回、金英哲氏が会談に同席しなかったのは、彼が「コワモテ担当」だからかも知れない。北朝鮮側はホンネでは、米国が朝鮮戦争の終戦宣言に応じないことなどについて、業を煮やしている。それを米国側に伝え、駆け引きで実を取るのが金英哲氏の役割だ。だが米朝双方とも今回の会談については、厳しいやり取りは控える方針だったと思われる。そこで金正恩氏は「武闘派」の金英哲氏をいったん下げたのかもしれない。

では、誰が同席すべきか。米国側の同席者は、フォード・モーターの国際担当副会長でもあるスティーブ・ビーガン北朝鮮担当特別代表だ。ビーガン氏の北朝鮮側のカウンターパートは崔善姫(チェ・ソニ)外務次官だが、彼女はちょうど中国・ロシア訪問の途中だ。非核化を話し合うなら李容浩(リ・ヨンホ)外相が最も適任だが、次官の代役が外相というのも変だし、外相と特別代表でも釣り合わない。

そこで、今回は主な議題が首脳会談であることから、金正恩氏の秘書役である金与正氏が選ばれた――。

とまあ、筋道を立てて考えればこのような分析が可能だが、誰を同席させるかは、金正恩氏の考え次第だ。上述したような状況がある中で、自然な形で妹を対米「デビュー」させたようにも思える。そしてその先にあるのは、金与正氏の「ナンバー2」としての地位確立なのではないか……。

金正恩氏には健康不安説もある中、金与正氏は彼の「パーティー狂い」をいさめたり、他の政策についても「厳しい助言」をしたりしているとの話もある。

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そもそも、母親が大阪出身の金正恩氏は、北朝鮮国内に頼れる親戚が多くはない。権力維持のためには、兄妹の結束がまず重要だ。

実際に金正恩氏は、妹の身の周りのことに相当、気を使っていたフシがある。たとえば2015年5月には、彼女の学生時代の同級生十数人が謎の失踪を遂げる事件があった。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によれば、金与正氏の金日成総合大学時代の同級生十数人が、勤務先の平壌の中央機関から一斉に姿を消した。その後、全員が地方に追放されたことが明らかになるが、追放の理由は、ほんの些細な言動だった。

彼らは「金与正は同級生だ」と周囲に言いふらしていたとされる。これが、党中央に報告され、「最高尊厳の同級生であることを軽々しく吹聴するのはけしからん」と見なされたものと思われる。

ただし、活発で社交的な性格の金与正氏は、追放された同級生たちに「困ったときは私の名前を出して」と言っていた可能性がある。また、彼女が事前に追放措置を知っていたら反対していただろうとも言われている。

「金与正は同級生」発言が、国家に何らかの害を与えたとは考えにくいが、それにも関わらず追放されたのは「金正恩氏の意向が強く働いたため」と内部情報筋は見ている。

同級生の追放措置を知り、金与正氏はショックのためしばらく仕事が手につかなかったとも伝えられている。

しかし現在の彼女に、そのような弱さはうかがえない。

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金与正氏の動静に、今後も要注目だ。