北朝鮮の金正恩党委員長と韓国の文在寅大統領が19日に署名・発表した「9月平壌共同宣言」は、南北の軍事的敵対関係の解消に向け、大きく踏み込む内容となった。誠実に履行されれば、朝鮮半島情勢の大きな転機となる可能性がある。

それにしても北朝鮮と韓国は、どうして今までこの合意を結ぶことができなかったのか。現在と過去の状況に、どのような違いがあるのだろうか。

ひとつは、北朝鮮が昨年までに、核戦力を実質的に完成させた現実がある。金正恩氏は核によって交渉力を高め、米韓に重要な要求を飲ませることに成功したのだ。そしてその要求とはほかでもない、北朝鮮国内における人権問題を先送り、ないしは無視することだ。

トランプ氏は、昨年9月の国連総会演説で、北朝鮮を「邪悪な体制」と呼び、同11月の韓国国会での演説でも北朝鮮では約10万人が強制収容所に拘束され、拷問などの虐待を受けていると糾弾した。今年2月にホワイトハウスに脱北者を招いた際には、北朝鮮女性の人身売買を自分が「止めさせる」とまで宣言した。

(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち

ところが、トランプ氏は6月の米朝首脳会談の後、米FOXニュースのインタビューで、他の国々も「悪事」を働いてきたと述べ、金正恩政権の人権侵害を軽視する姿勢を示した。文在寅氏に至っては、北朝鮮の人権問題にまともに言及さえしていない。

北朝鮮にとって、「完全な非核化」は簡単なことではないだろうが、不可能な課題でもない。金正恩氏は北朝鮮において、「全能」に近い独裁者だ。彼が決心すれば、たいていのことは実現できる。

だが、人権問題は別だ。国民に対する人権侵害を止めるということは、恐怖政治を止めることと同義だ。そんなことをしたら独裁権力が弱まり、「全能」ではなくなってしまう。だから金正恩氏は、米韓が人権問題に干渉してこない限り、「完全な非核化」に向けた取り組みを続けるだろう。

しかし、本当にそれで良いのだろうか。金正恩氏が独裁権力を維持すると言うことは、今後も北朝鮮で恐怖政治が続き、国民が理不尽な暴力にさらされ続けるということだ。「この世の地獄」とも言われる政治犯収容所も維持され、脱北に失敗した女性に対する強制堕胎などの虐待も続く。

これは、非核化にも影響を及ぼす。いったん「完全な非核化」が行われたとしても、金正恩氏の手元から、核開発に必要なデータが永遠に消去されることにはならないだろう。そのうえ北朝鮮にはウラン資源がある。

北朝鮮が民主化されず、金正恩氏が独裁権力を維持するなら、彼の気持ちひとつでいつでも「再核武装」に動くことができるのだ。