「白頭山トレッキング」に隠された金正恩氏の深謀遠慮

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筆者は19日朝公開の本欄記事で、金正恩党委員長が文在寅韓国大統領を「白頭山に案内するかも知れない」と予想したが、実際にそのとおりの展開となった。もっとも、韓国メディアの記者たちの間ではこうした見方がけっこう出ていたので、筆者ひとりが予想を的中させたわけでもないのだが。

ともあれ、以前から「白頭山トレッキング」を希望していた文在寅氏には嬉しいプレゼントになったろうが、金正恩氏は果たして、単に対話相手を喜ばせるためだけにこれを計画したのだろうか。

両首脳が19日に署名・発表した「9月平壌共同宣言」には、次のような内容がある。

「南と北は条件が整い次第、開城工業団地と金剛山観光事業を優先して正常化させ、西海経済共同特区および東海観光共同特区を造成する問題を協議していくことにした」

筆者が注目するのは、「東海観光共同開発特区」(以下、東海特区)である。

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北朝鮮では今、金正恩氏の号令の下、大々的な観光地開発が進められている。その中心は東海岸にある「元山葛麻(ウォンサンカルマ)海岸観光地区」だ。同地区は、間違いなく東海特区に組み込まれることになる。

東海特区からはだいぶ離れているが、両首脳が白頭山訪問に際して経由するであろう両江道(リャンガンド)の三池淵(サムジヨン)郡もまた、大規模な観光開発が行われている。

そしてこれらの開発現場には、共通する問題点がある。安全対策の欠如から、深刻な事故が多発しているか、あるいは懸念されているのだ。

(参考記事:金正恩氏の背後に「死亡事故を予感」させる恐怖写真

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周知のとおり、非核化を巡る米朝対話は停滞しており、北朝鮮が待望する経済制裁の緩和もまだ先の話だ。それまでの間、北朝鮮はどうにかして外貨不足をしのがなければならないのだが、どうやらそのための方策として重視されていると思しいのが、観光分野なのだ。

しかし、ただでさえ経済制裁で苦しいのに、北朝鮮が自力で観光地開発を行うのは相当にシンドイだろう。安全対策が後回しになる理由も、半分はそのためだ。残りの半分は、昔から続く「人命軽視」のためだろうが……。

そこで金正恩氏は、韓国からすばやく支援を得るために、モデルとして三池淵の現場を見せるつもりなのではないだろうか。

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観光分野は、国連安全保障理事会の制裁決議においても対象とされていない。もしかしたら、今回の共同宣言でうたわれた内容の中で真っ先に形になるプロジェクトは、観光分野かもしれない。