北朝鮮は2017年7月28日深夜、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試射を強行した。この直前、日米韓などのメディアは、発射があるとすれば北西部の亀城(クソン)一帯からであろうと伝えていた。ところが実際に発射場所となったのは、亀城から東に約130キロも離れた慈江道(チャガンド)の舞坪里(ムピョンリ)だった。
発射場所は亀城だろうとしたメディアの予想には、それなりの根拠があった。
韓国紙、東亜日報は同月27日、亀城付近で金正恩党委員長の専用車を含む車列が捕捉されたと伝えた。米メディアも、亀城でミサイル機材を積んだ車両が確認されたとして、27日にミサイル発射に踏み切る可能性があると報じていた。これらはいずれも、米国の偵察衛星が26日頃までに捉えた情報に基づくものだったと思われる。
しかしこの情報に基づく予想は、結果的に間違っていた。北朝鮮当局が、金正恩氏の乗っていない専用車を動かすなどして行った、「攪乱(かくらん)工作」にしてやられたのだ。
米国は極秘にされている金正恩氏の動線を知るために、偵察衛星で絶えず専用車の動きを追跡していると思われる。仮に金正恩氏の排除を狙うなら、専用車やその行く先をステルス戦闘機などで急襲するのが最も近道だろう。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面金正恩氏は、重要な弾道ミサイルの発射実験に際しては、毎回のように現場で指揮を執ってきた。
(参考記事:【画像】「炎に包まれる兵士」北朝鮮、ICBM発射で死亡事故か…米メディア報道)それに加え、「走り屋」として知られる金正恩氏は、自ら専用車両のステアリングを握ることもある。
(参考記事:金正恩氏の「高級ベンツ」を追い越した北朝鮮軍人の悲惨な末路)だからこそ北朝鮮当局は、ベンツやレンジローバーなど複数ある金正恩氏の専用車を同時に動かすなどして、彼の身の安全を図っているのだ。金正恩氏の本当の動線を知るのは、この当時は妹・金与正(キム・ヨジョン)氏をはじめ、護衛総局幹部などごく少数に限られていたとされる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面米トランプ政権は北朝鮮との緊張が高まっていた2017年10月、有事に備え空軍に金正恩党委員長を暗殺する訓練を極秘に行わせていたとされる。仮に暗殺作戦を実行するにしても、成功させるためには金正恩氏の動線把握が必須だった。
それを知るには、金正恩氏側近の中に「裏切り者」を探す必要があった。恐怖政治を武器に権力を維持し、気に入らない者は情け容赦なく処刑していた金正恩氏に対しては、北朝鮮国内にも反感があるのは間違いない。
(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」…残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認)ただ、そのような「反体制派」がいたとして、米国が接触できていたかと言えばそうとも思えない。金正恩氏は結局、米国から命を狙われながらも、自らの命を守り切ったのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面もちろん、いくら「鉄壁」を誇る守りであっても、永遠に成功し続ける保証はない。実際のところ、金正恩氏も「ギリギリのタイミング」で生き延びたと言うこともできるのだ。