北朝鮮当局は、金正恩党委員長が昨年12月に行われた朝鮮労働党第5回党細胞委員長大会での演説で、「非社会主義的現象を根絶やしにせよ」と指示したことを受け、大々的な風紀取り締まりを行ってきた。
本欄でもすでに紹介したが、デイリーNKは4月27日の南北首脳会談の直前に、両江道で幹部を集めて行われた政治講演会の内容を入手した。講演会では、非社会主義と反社会主義の行為を事細かく分類し、網タイツ、花柄のストッキング、アルファベットのプリントされたTシャツの着用などといった「社会主義気風を乱す退廃的な服装」から、「色情的な踊り」(K-POP風のダンス)に至るまで、違反した者は重罰に処する方針が示されていた。
(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは… )その後、デイリーNKジャパンのカン・ナレ記者は、この講演と同様の内容の記録映画があることを突き止めた。そして最近、それをコピーしたと思しき動画を、韓国の市民団体が入手して公開していたことがわかった。残念ながら画質がやや荒く、ナレーションと字幕も朝鮮語だけなのだが、音声はハッキリ聞こえるので、内容は把握できる。
映像には主に、「ハデな服装」で平壌の通りを歩く人々の姿が収められている。「ハデ」とは言っても、日本でなら完全に地味な部類で、Tシャツにプリントが入っている程度だ。
しかしナレーションは、「強勢国家建設の突撃隊主力となるべき若者たちが、敵が投げ与えるエサに何のためらいもなく手を伸ばし、敵のなすがままにされている」と大げさに非難。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面さらには、風紀取り締まりを行う「糾察隊」に連行されたと思しき若い女性が、取調室風の部屋の中で恥ずかしそうに全身を撮影されたり、大人から子どもまで様々な年齢の男女が名前と顔と住所までを画面でさらされたりする映像が流れ、「夫や父は、妻や子供たちが着て歩く服が、社会主義風潮に合うものなのか、わからないのか」との糾弾が続く。
また、映像には外国製の衣類と見られる商品も映っている。どうやらパッケージに使われているセクシーな外人モデルの写真が、「腐敗堕落している」ということのようだ。
しかしながら、今や北朝鮮国民の中にも、体制中枢の権力者たちがいかに堕落しているかを知っている人々は少なくない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面こんな映像を見せられたところで、「その通りだ」とうなずく人は、文字通り1人もいないのではなかろうか。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。