「日本に無慈悲な報復」金正恩氏、お土産没収に激怒

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北朝鮮の金正恩党委員長が、日本政府からの圧力に猛反発している。

北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は5日、日本にある朝鮮学校の生徒が修学旅行で北朝鮮から持ち帰った土産品を税関で没収された問題を巡り、「人道主義と国際法を乱暴に蹂躙した許せない野蛮行為、反人倫的悪行である」と非難する論評を掲載した。

「処刑」巡る動画公開

この問題は、神戸朝鮮高級学校の生徒62人が6月28日夜、北朝鮮訪問を終えて関西空港に到着した際、約半数の生徒が、北朝鮮の国旗などが描かれた化粧品や薬などの土産品を、税関により「経済制裁により禁止された輸入品」とみなされ、押収されたというもの。

論評はこれに対し、「総聯と在日同胞に対する日本反動層の卑劣な政治的テロとしつこい迫害策動は、千年来の敵である日本に対するわが人民の憎悪の念と無慈悲な報復の意志だけをさらに固めさせている」として強く反発。この前日には国営の朝鮮中央通信も、「島国チョッパリ」という日本人に対する蔑称まで用いて、激しい非難を行った。

金正恩氏は北朝鮮のメディア戦略を直接指揮していると見られ、自分の怒りを強くアピールする手法を得意としている。

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2015年にスッポン養殖工場を視察した際には、管理不備に激怒し、支配人を銃殺させた。後にその動画を公開して国民に恐怖を植え付けるなど、そのやり方は周到かつ冷徹だ。

(参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導

母親は大阪出身

今回の北朝鮮メディアの報道は、金正恩氏の「怒り」を強調しながら、日本政府に「揺さぶり」をかけるものであると言える。安倍晋三首相は日朝首脳会談の開催を目指す方針を打ち出しているが、北朝鮮が日本人拉致問題について「完全に解決済み」と主張していることもあり、実現は簡単ではない。

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そこで今回の問題を受け、北朝鮮側は「本当にやる気あるの?」とたたみかけているのだ。

筆者は、当面は対北圧力を維持するという日本政府の方針に、必ずしも反対するものではない。ただ、今回の「お土産没収」については、あえてそこまでする必要があったのか、とも感じる。高校生が持ち帰ったお土産くらい、内容をチェックして問題がなければ、そのまま返却しても何ら実害はなかったはずだ。

共同通信の報道によれば、北朝鮮は日本との水面下の協議で、日本側が独自の経済制裁を緩和しない限り、拉致被害者の再調査には応じられないとの考えを伝えているという。日本政府がそれを知りながら「お土産没収」を実行したとしたら、北朝鮮側から対話の意思を疑われるのも当然だろう。

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もしかしたら、北朝鮮との対話を目指すという内閣の方針が税関の末端にまで徹底されていなかったのかもしれないが、それはそれで行政のミスだ。

一方、今回の問題は在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の発表により明らかになったわけだが、これにも拙速の観がある。ことを荒立てる前に、北朝鮮本国のメッセージを静かに日本当局に伝え、それによりお土産が返却されたなら、むしろ日朝の対話再開にプラスの雰囲気を作れたのではないか。

どうも、日朝のコミュニケーション断絶が長期に及んだせいで、こういった知恵のやり取りが難しくなっているように見える。北朝鮮の高官にも、日本通と呼べそうな人物は見当たらない。ここはやはり、母親のルーツが大阪にある金正恩氏本人を、何としても交渉の場に引っ張り出す必要がありそうだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記