「日本は首を突っ込むな」…金正恩氏が強める「対日非難」の本音

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北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は4日、日本の政治家に「せん越な言動」が見られるとして非難する論評を掲載した。論評は、安倍晋三首相が「北朝鮮が非核化に向けて具体的に行動するまで、制裁を解除しない」と主張していることなどに言及。

続いて「日本は、朝鮮半島問題にむやみに干渉してはならず、自分のやるべきことをはっきり知って行動すべき」としながら、「日本が急務として提起される過去清算問題を棚に上げようとする限り、いつになっても地域で独りぼっちの境遇を免れない」と強調した。

これは要するに、「日朝対話を行うなら焦点は過去の植民地支配に対する賠償であり、それに乗る気がないなら、安倍首相は朝鮮半島問題に首を突っ込むな」という金正恩党委員長からのメッセージである。北朝鮮のメディア戦略を自ら統括していると見られる金正恩氏は、こうした対日情報戦にますます力を入れている。

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その一方、日本人拉致問題を巡り、水面下で怪情報も飛び交っている。横田めぐみさんらについて、これまで北朝鮮が公式に発表してきたのとは異なるディテールを添えつつ、改めて「死亡」を強調する内容だ。情報の出所は正確にはわからないが、公安関係者の間には、「北朝鮮が対日交渉に備えて意図的に流すディスインフォメーション(欺瞞情報)ではないか」との見方がある。こうした情報を事前に流すことで、拉致問題の結末を日本側に「覚悟」させ、自らの意図する方向に交渉を導こうとしているのではないか、との分析である。

もちろん、これに乗るほど日本政府も愚かではないだろうが、北朝鮮との対話を何をもって始めるか、糸口を探っているのも事実だろう。日本側としては、拉致問題を前面に立てずに対北交渉を開始するわけには行かない。それを知って、北朝鮮は欺瞞情報を投げてよこしているのではないか。

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だが、日本側が焦らずとも、北朝鮮側が先に動いてくる可能性はじゅうぶんにあると筆者は見ている。時期としては、夏から11月頃にかけての間だ。

国連総会と国連人権理事会では10年以上にわたり、北朝鮮の凄惨な人権侵害に対する非難決議が採択されているが、その決議案の共同提出者は欧州連合(EU)と日本だ。国連総会での採択は毎年12月だが、今年はその時期が巡ってくる前に、北朝鮮は日本に対し「日朝首脳会談を開きたければ止めておけ」と圧力をかけてくる可能性が高い。

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金正恩氏は、諸外国から人権問題で追及されるのを何よりも嫌っている。核兵器は、どのような形で非核化するにせよ、その気になれば新たに作る余地は残る。しかし、人権問題はそうはいかない。国民の人権に配慮して恐怖政治を止めてしまったら、金正恩氏は権力を維持できないからだ。

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口では「首を突っ込むな」と言っていても、金正恩氏には、日本と交渉すべき動機がじゅうぶんにある。いっそ日本政府は金正恩氏を交渉の場に引き出すために、人権問題に対する非難をいっそう強めてみてはどうだろうか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記