今月に入り、日本海がイカ釣り漁業のシーズンを迎えている。能登半島沖にある好漁場「大和堆(やまとたい)」では近年、北朝鮮の漁船が日本の排他的経済水域(EEZ)内での違法操業を続けており、昨年は特にその数が多かった。
北國新聞(23日付)によれば、石川県漁協小木支所(能登町)所属の中型イカ釣り船が22日、大和堆で日本のEEZ内に約50キロ侵入した北朝鮮船1隻を目撃した。出漁中の日本の中型イカ釣り船が北朝鮮船と遭遇するのは、今季はこれが初めてだという。
漁民が語った「恐怖体験」
北朝鮮船の違法操業は、日本側に漁獲減少のダメージを与えていると見られている一方で、遭難による北朝鮮漁民の犠牲も深刻だ。北陸など日本海沿岸には、北朝鮮漁民と見られる遺体の漂着が後を絶たない。
最大の原因は、「日本なら100年前のシロモノ」と言われる粗末な木造船による強引な出漁にあると見られている。サイズが小さすぎ、構造的にも沖合での漁業に向かない木造船は、大波に遭うと簡単に転覆する。海に放り出され命を落とした北朝鮮漁民の数は、昨年だけで1000人を下らないと見られる。
(参考記事:【写真】石川県に漂着した北朝鮮の木造船)米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は今年3月、かつて北朝鮮でイカ漁に従事したことのある脱北男性のインタビューを掲載した。男性はその中で、木の葉のように大波にもてあそばれる木造船の様子を描写。「あの時の恐怖は言葉では言い表せません」と語っている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面デイリーNKジャパンの取材によれば、北朝鮮の金正恩党委員長は今年5月、GPSを搭載したプラスチック(おそらくFRP)製の漁船を2万隻調達せよとの命令を下したとされる。何も対策がないよりはマシとも思えるが、経済制裁下にある北朝鮮が2万隻もの漁船を調達できるのか。結局は掛け声倒れに終わり、漁民の犠牲が増え続けることになるのではないか。
ちなみにこの命令は、漁民の犠牲が海外で広く報道され、国家の「対外的な威信」が傷つくことを恐れて出されたものだという。
今さら何を言っているのか、と思わざるを得ない。漁業に限らず、北朝鮮の国家的事業はどれも「死屍累々」であり、国民の犠牲なしに成り立ったものが果たしてどれほどあるか。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面しかしそれにしても、漁民の人命被害は現在進行形だ。それも、日本の目と鼻の先で起きている。犠牲をなくすための、何か良い手立てはないものだろうか。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。