金正恩氏、軍高官を処刑「核開発の苦労が終わった」発言に激怒

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北朝鮮の金正恩党委員長の命令により、またひとり朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の将軍が公開処刑されたもようだ。

デイリーNK内部情報筋によると、今回処刑されたのは朝鮮人民軍の中将で、人民武力省で補給を担当していたヒョン・ジュソンという人物だ。先月初めの裁判で死刑判決を受け、江健(カンゴン)軍官学校の射撃場で、人民武力省庁舎警務部(憲兵隊)の第2大隊第1中隊の兵士9人から拳銃弾計90発を打ち込まれ、処刑された。

同校は、大口径の高射銃を使って人間をミンチにする残忍な処刑が行われてきた場所で、その場面が衛星写真に捉えられたこともある。

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幹部らの「やりたい放題」

ヒョン中将の罪状は、職権乱用と利敵行為、反党行為というものだった。彼は今年4月10日、戦時物資の総合検閲の際に、西海衛星発射場(ロケット発射試験場)への燃料供給の実態を視察したとき、「もはや苦労してロケットや核兵器を作らなくても済む」と発言した。この発言が、職権乱用と党の先軍路線に反対する利敵行為とみなされた。

また、燃料1トン、コメ580キロ、トウモロコシ750キロを西海衛星発射場で勤務する軍官やその家族に配給するよう指示したが、これが「党の唯一思想体系確立の10大原則」に反する反党行為とみなされた。

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この報告を受けた金正恩党委員長は激怒し「個人偶像化の恐ろしい思想毒素が人民軍の高官を変質させている、変質した思想毒素は根絶やしにしなければならない」と述べ、銃殺を命じたと、情報筋は説明した。

(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」…残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認

金正恩氏は、いったい何に怒ったのか。まずひとつが、米国から要求されていた非核化を飲むという党・軍・政府の機密事項を、不用意に口にしたということだ。4月10日と言えば、今年最初の南北首脳会談よりも前である。

それに加え、配給で部下の歓心を買おうとしたと見なされた。贈り物を「下賜」する行為は、北朝鮮では最高指導者にしか許されていない。

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金正恩氏の「お目こぼし」を受けた幹部らが「やりたい放題」を働くことはあるが、超えてはならない一線があるということだ。

(参考記事:「幹部が遊びながら殺した女性を焼いた」北朝鮮権力層の猟奇的な実態

このエピソードからは、金正恩氏が「非核化」を求める米韓との交渉に、いかにナーバスになっていたかがうかがえる。また、金正恩氏は何か大きな事業に取り組むとき、部下らを緊張させるための手段として処刑を用いるとの話もあるが、このケースはそれに当てはまる出来事なのかもしれない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記