「あまり美人に育たないで」北朝鮮の親たちが娘の将来を案じる理由

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「あまり美人に育たないでおくれ」
「それ以上、身長が伸びなければ良いのに」

北朝鮮で、自分の娘を眺めながら、このように願う親たちが増えているという。

韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)元駐英北朝鮮公使が近著『3階書記室の暗号 太永浩の証言』(原題)で明かしているところによれば、そのきっかけとなったのは2013年12月、金正恩氏の叔父・張成沢(チャン・ソンテク)朝鮮労働党行政部長が国家転覆陰謀罪で処刑された事件だった。

朝鮮労働党は同月8日の中央委員会政治局拡大会議で、張成沢氏を「反党反革命的宗派行為」で糾弾し、除名することを決めた。そして翌日、同党機関紙の労働新聞はこの決定を伝える記事の中で、張成沢氏の「悪行」について次のように伝えた。

「張成沢は、権力を乱用して不正腐敗行為をこととし、多くの女性と不当な関係を持ち、高級食堂の裏部屋で飲食三昧におぼれた。
思想的に病み、極度に安逸に流れたため麻薬を使い、党の配慮によって他国に病気の治療で行っている期間には外貨を蕩尽し、賭博場にまで出入りした」

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太永浩氏によると、北朝鮮の人々はこれを読んで驚愕し、張成沢氏を指弾したという。同氏の妻は、金日成主席の娘である金慶喜(キム・ギョンヒ)氏だ。国父の娘をめとりながら、何が不足で不倫を重ねたのか、というわけである。

しかし、ことはそこで終わらなかった。北朝鮮当局は張成沢氏とともに、同氏の関係者たちを大量に粛清した。その中には元スター女優のキム・ヘギョンをはじめ、彼の愛人だった女性たちや、彼に女学生を捧げたエリート女学院の校長までが含まれていたのだ。

その様子が伝わるにつれて、娘を持つ親たちは恐怖と怒りに震えた。北朝鮮には、学業の成績優秀かつ美貌に恵まれた10代の少女たちを選抜し、権力者たちに仕えるタイピストや看護師、警護員に育てるシステムがある。有名な「喜び組」もまた、この中で養成される。

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太永浩氏によれば、北朝鮮の庶民は従来、娘がこのような対象に選抜されることを喜んでいたという。名誉でもあるし、選抜された少女の家庭には様々な恩恵が与えられるからだ。しかしそれも、「喜び組」の存在を知らず、一部の女性たちが権力者の「性の玩具」にされているなど、想像すらしていなかったからにほかならない。【動画】ビキニを着て踊る喜び組、庶民は想像もできません

一部のエリートは、このような腐敗した実態があることを以前から察し、娘の将来を案じていたという。それが張成沢氏の処刑を機に、ほとんど全国民の知る所になってしまったのだ。

もっともそのような情報は、韓国や日本ではとっくの昔から出回っている。北朝鮮当局が国民を海外情報から遮断している理由は、こういったところにもある。

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だが、金正恩氏が推し進めている韓国や米国との関係改善が進展し、北朝鮮と国際社会との交流が増えれば、このような情報が北朝鮮に流れ込む機会は確実に増える。金正恩氏は、体制存続のため大胆な外交に乗り出したわけだが、実のところ、なかなか危ない橋を渡っているのである。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記