トランプ氏との声明を「先にバラしちゃった」金正恩氏の掟やぶり

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北朝鮮の金正恩国務委員長(朝鮮労働党委員長)とトランプ米大統領は12日、シンガポールで行われた米朝首脳会談で、(1)両国の関係正常化(2)朝鮮半島の平和構築(3)朝鮮半島の完全な非核化(4)米兵遺骨の送還で合意し、共同声明に署名した。

実は、北朝鮮はこの共同声明の内容を、こともあろうに会談が始まる前にバラしていた。

北朝鮮国営の朝鮮中央通信は11日、金正恩氏がシンガポールに向け出発したことを伝える記事で、首脳会談では「変化した時代の要求に応じて新しい朝米関係を樹立(1)して朝鮮半島の恒久的で強固な平和体制を構築する問題(2)、朝鮮半島の非核化を実現する問題(3)をはじめ、互いに関心を寄せる問題(遺骨送還=4)に対する幅広くて深みのある意見が交換される」としていた。

まさに、共同声明を先取りする内容と言える。

この「掟破り」を命じたのは、間違いなく金正恩氏本人だ。筆者は以前から、北朝鮮のメディア戦略は金正恩氏が直接指揮していると見ていたが、やはり最高指導者の裁可なくして、こんな大胆なことを出来るものではない。

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これはつまり、米朝は会談前の時点で大筋合意に達していたということだろう。声明の第3項が「2018年4月27日の(南北首脳会談の)板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けた作業を行うことを約束する」となっているところを見ると、韓国の文在寅大統領が調整役を果たしたのかもしれない。

いずれにせよ、会談は雰囲気的には成功だったが、米国の野党・民主党にとって、共同声明はツッコミどころ満載だろう。まず、トランプ政権が強力に要求してきた「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」(CVID)という文言が欠けている。それに、人権についての言及がないのも問題だ。

トランプ氏は2月、ホワイトハウスに脱北者を招いて金正恩体制による人権侵害について聞き取り、特に脱北女性の人身売買については「私がやめさせる」とまで言っていたのだ。

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トランプ氏とすれば、「人権問題を持ち出したら、まとまるものもまとまらない」ということなのだろうが、批判勢力はそんな言い分に配慮しない。

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トランプ氏が民主党の攻勢を跳ね返して共同声明を守るためには、金正恩氏が非核化で具体的なアクションを起こし、「約束を守る」姿勢を示す必要がある。

つまり世界は今、「トランプ&ジョンウン」の最凶タッグの誕生を見ているわけだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

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