あっという間に300人が死亡…北朝鮮の交通事故が壮絶な理由

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北朝鮮では、当局の安全対策の不備により、大規模な死亡事故が繰り返し起きてきた。

最も深刻なのが、建設現場での事故だ。北朝鮮では最高指導者の誕生日など、国家的な記念日に間に合わせるため、「速度戦」と呼ばれる突貫工事が行われているが、あまりに無茶な工期設定のため、数十人から数百人規模の死亡事故が起きてしまうのだ。

(参考記事:【再現ルポ】北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図

また、軍需物資など危険物の管理不備による事故も繰り返し発生しており、それによる民間人の死傷者も多数に上っている。

もちろん、交通事故も深刻で、今年の春先には歴史に残るほど多数の人が、あっという間に犠牲になる悪夢のような1日があった。

北朝鮮当局は3月初めから、国の機関や国営企業などの貨物トラックのドライバーがカネを受け取って人を荷台に乗せる行為を禁止し、取り締まりを行っている。そのきっかけとなったのは、たった1日で300人が交通事故で死亡するという深刻な事態だ。

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北朝鮮の貿易機関の幹部によると、事故を起こしたのはある貿易機関に所属するトラックだ。現場には前日午後から大雨が降っていた。通常、北朝鮮北部で雨が降るのは4月中旬以降で、3月初めの大雨は観測史上初めてのものだった。

朝鮮中央テレビによると、3月5日に観測された白頭山の最低気温は氷点下28度。山の麓でも非常に寒く、道が凍結してしまった。そこを通りかかった貨物トラックと乗用車6台が国境を流れる鴨緑江に転落。荷台に乗っていた人を中心に76人が死亡し、30人余りが重傷を負う事故があった。

この事故だけではない。上記の事故と同様に、荷台に人を乗せたトラックが下り坂のアイスバーンなどで次々に事故を起こし、この日だけで両江道(リャンガンド)内で300人が死亡、数百人が重傷を負ったと情報筋は伝えた。

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そもそも、北朝鮮では車両や燃料不足により公共交通機関がまともに運行されていない。その穴を埋めているのが「ソビ車」と呼ばれる個人経営のタクシーや運送屋、あるいは政府機関や国営企業の車両だ。こうした「ソビ車」が運賃を取って荷台に乗客を乗せて運ぶことで、北朝鮮経済はようやく回ってきたのだ。しかしそのために、交通事故の発生時に被害が拡大してしまうのだ。

だが、「ソビ車」が人を運ばなければ、経済にも支障が出る。それを禁止するというのだから、北朝鮮当局が、事態をいかに深刻に受け止めたかがわかる。金正恩党委員長は、マンションの崩壊事故で500人もの犠牲者が出た際、事態収拾を自ら指揮したとされるが、今回の禁止措置も、金正恩氏が直々に発したものである可能性がある。

金正恩氏は本人も「走り屋」であるとの情報もあり、交通事故には敏感なのかもしれない。

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しかしそれで、「ソビ車」が荷台に乗客を乗せるのを止めるとは思えない。市場で商売しながら生計を立てる人々にとって、ヒトと商品の移動を担う「ソビ車」はライフラインなのだ。北朝鮮当局が国民の生命を守るためには、非核化により経済状況を改善し、公共交通機関の信頼回復を図る以外に道はないのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記