北朝鮮は24日にも、豊渓里(プンゲリ)にある核実験場を、坑道爆破によって廃棄すると見られている。これについて、専門家の間から「証拠隠滅ではないか」などの懐疑的な見方が出ている。
米CNNによれば、化学の専門家として過去35年、世界各地で核兵器や化学兵器の廃棄に立ち会ってきたシェリル・ロファー氏は、「(廃棄の取材で訪朝した外国記者団に)同行できるならサンプル採取や放射能測定の機材を持参したかった。地質学者も連れて行き、坑道の中に入って陥没部分があるかどうかを確認したかった」と語っている。
爆破前にこうした情報が得られれば、北朝鮮が開発していた核爆弾の種類や原料、成分、さらには今後の計画も分かった可能性があるのだという。
核実験場の廃棄により消されるのは、核兵器開発の証拠だけではない。
豊渓里近くには、悪名高き政治犯収容所「16号管理所」(化成〈ファソン〉収容所)が存在する。ここに収容された政治犯が、核実験施設で防護服なしで、つまりは被ばくしながら強制労働させられているという情報がある。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面収容所の警備兵出身で脱北者の安明哲(アン・ミョンチョル)氏は、「若くて元気な政治犯たちがトラックに乗せられ、『大建設』という名目で核実験施設に連れて行かれた」と証言している。
政治犯収容所では、拷問、公開処刑などありとあらゆる人権侵害が常態化している。
強制的な被ばく労働も隠れた人権侵害の一つと言えよう。北朝鮮当局からすれば政治犯は「敵対勢力」であり、強制労働させても被ばくさせても何ら罪の意識を感じないようだ。
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核実験場という性格上、建設は秘密裏に行われるため一般住民は動員しづらい。しかし、政治犯ならよほどのことがない限り情報は漏れず、万が一のことがあっても隠蔽しやすい。被ばくによる死者が出ると、遺体は放射性廃棄物扱いされ統制区域に埋められるという。
核実験場ではないが、北朝鮮のウラン鉱山で働く労働者の平均寿命はその他の地域に比べ著しく短いとも言われている。
こうした人権侵害は、国際法により「人道に対する罪」として裁かれてしかるべきものだ。その物的証拠が消されてしまうことには、まことに忸怩たるものがある。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。