若者の命を次々と飲み込む…北朝鮮「呪われた巨大発電所」

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北朝鮮では以前から、国家指導者の生誕記念日や政治的に重要な日に成果として発表するために、無理やり工期を短縮する突貫工事「速度戦」が繰り返されている。

そのため工事は手抜きにならざるを得ず、事故が多発している。平壌では23階建てのマンションが崩壊する事故が発生。高速道路の工事現場では、橋が崩落し500人が死亡する事故が起きている。

(参考記事:500人死亡の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故

北朝鮮の建国以来、最大のプロジェクトとなる端川(タンチョン)発電所建設も同様だ。160キロにも及ぶ水路と発電施設を作る大工事には、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士と民間人が数十万人も動員されているが、現場では事故が相次いでいる。

両江道(リャンガンド)と咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、江原道(カンウォンド)の洗浦(セポ)地区畜産基地建設に動員されていた922突撃隊、人民内務軍7総局、人民軍第7師団、平壌市内のタワーマンション団地の黎明(リョミョン)通りの建設に動員されていた護衛司令部の隊員が、昨年9月から端川発電所の工事に動員されている。

また、人民保安省(警察庁)、国家保衛省(秘密警察)傘下の各大学も、学生の卒業を1年延期して現場に送り込んだ。さらには各道の中等学院の孤児も卒業を早めた上で、今年2月から現場に送り込まれた。

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一方、各地の工場や企業所は「端川発電所突撃隊」を立ち上げ、生産部門、非生産部門を問わず男性職員に半年間、現場で働くことを指示した。発電所建設現場に投入された人員は、兵士と民間人が半々ずつの延べ40万人にのぼる。

その現場の状況は、極めて劣悪だ。

「端川発電所の建設は、両江道の三水(サムス)、金亨権(キムヒョングォン)、咸鏡北道の端川と虚川(ホチョン)の30ヶ所で同時に行われているが、工具は削岩機、つるはし、石、シャベルのみだ」

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安全装備がないため、頻繁に人的被害が発生している。情報筋によると、安全対策と安全装備の不備により、護衛司令部1旅団だけで1ヶ月に34人の兵士が死亡した。重軽傷を負って除隊になる兵士はこれよりはるかに多い。

両江道の別の情報筋によると、端川発電所は、国家経済発展5カ年戦略が完了し、朝鮮労働党第8回大会が開催される2020年までに完成する計画だが、劣悪な供給体制と安全性を考慮していない無理な工事のため、現場の不満が高く工事が進んでいない。

現場に動員されている息子に会いに行ったと語る咸鏡北道(ハムギョンブクト)の住民は、兵士たちは1日14時間も水路を掘削する工事に動員され、ひどい健康状態だったと現場の状況を説明した。

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この端川発電所は、中朝国境を流れる三水発電所貯水池や鴨緑江など複数の河川の水を、160キロにも及ぶ地下水路を通して、東海岸まで流し、落差を利用して発電するカスケード発電所だ。途中には8つのダムと発電所が建設され、計画通りなら180万キロワットの電力が生産できるようになる。元々は、朝鮮が日本の植民地支配下にあった時代に、日窒コンツェルン(現チッソ)が計画していたものだ。

創業者の野口遵(のぐち・したがう)は、水量豊かな朝鮮半島北部の鴨緑江をせきとめ、巨大な水力発電所を建設するなど、電力事業に多大な投資を行った。野口はさらに、川をせき止めて巨大な湖を作り、そこ水を東海岸に流して発電し、興南肥料工場など各地の工場に供給するという壮大な計画を立てた。

設計まで終えたが、あまりにも壮大過ぎたため、結局断念した。そして、1945年8月15日の敗戦で日窒は朝鮮半島におけるすべての資産を失い、朝鮮から撤退した。

この計画は金正恩党委員長の祖父・金日成主席によって引き継がれた。彼は1980年代、西海閘門と合わせて端川発電所の建設を進めようとしたが、後者の建設は諦めざるを得なくなった。財政的な問題があったものと思われる。その後、長年に渡りその決定を悔やんでいたと伝えられている。

そして、構想90年に及ぶこのビッグプロジェクトを引き継いだのが、金正恩氏だ。2016年の新年の辞で「電力問題の解決に全党的、全国家的な力を入れるべきだ」と述べ、白頭山英雄青年発電所、清川江(チョンチョンガン)階段式発電所と合わせて端川発電所の建設に言及した。

しかし着工にこぎつけたのは、それから1年以上経った2017年5月18日になってからだ。朝鮮労働党第7回大会に向けた様々な記念工事で、労働力の確保がままならなかったためだ。

今後の展望も明るいとは言えまい。経済制裁で疲弊した北朝鮮が、果たしてこれほどのプロジェクトを完遂できるのか。非核化を急ぐ以外に、成功の道筋は見いだせない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記