金正恩政権「殺人的ストレス」に苦しむ北朝鮮の人々

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滋江道(チャガンド)のデイリーNK内部情報筋によれば、北朝鮮の秘密警察である国家保衛省は2017年6月25日、各地の下部機関に対し、資本主義に影響された思想と文化を根絶やしにすべしとする指示を伝達。その中で、咸鏡北道(ハムギョンブクト)清津(チョンジン)市で起きた「大学生事件」を、悪しき事例の典型として挙げているという。

「保衛省の指示文によれば、事件は、清津市内のある家屋に男女の学生らが定期的に集まり、韓国の映画や音楽を密かに視聴。違法薬物に酔った状態で音楽に合わせて踊ったり、性的にいかがわしい行為をしたりしたもの」(情報筋)だという。

韓流文化と違法薬物の蔓延は、金正恩政権が最も問題視しているものだ。

(参考記事:一家全員、女子中学校までが…北朝鮮の薬物汚染「町内会の前にキメる主婦」

ただ、指示文はこの事件で何人の学生が摘発され、どのような処罰を受けたかについては言及していないという。

一方、咸鏡北道の内部情報筋は「事件は地元の住民らも気づかないほど静かに処理された」としながら、「摘発の端緒となったのは今年2月、韓国の音楽を聴いていて捕まった清津芸術大学のある男子学生が、取り調べを受けていた道の保衛局で自ら命を絶った事件だった」としている。

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これとよく似た出来事が、過去にも起きてる。この学生もまず間違いなく、凄惨な拷問に耐え切れず究極の選択をしたのだろう。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

北朝鮮では、自殺は「金日成・正日・正恩3代の指導者と労働党に対する背信行為」と見なされる。そして遺族は、理由を問わず、敵対階層に分類される。では、それによって自殺は抑制されているのか?

世界保健機関(WHO)の2012年の統計によると、10万人あたりの自殺率(年齢調整なし)のランキングでは、北朝鮮は39.5人で1位。2位は韓国(36.6人)。ちなみに日本は9位(23.1人)だった。国ごとの人口と年齢構成の違いを調整した値でも、北朝鮮は1位のガイアナ(44.2人)に次ぐ2位(38.5人)だ。ちなみに韓国は3位(28.9人)、日本は18位(18.5人)だった。

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WHOのデータは推計ではあるが、実態からまるでかい離しているものであるとも思えない。上述したとおり、デイリーNKも内部情報筋の証言から、北朝鮮国内で様々な理由で自殺が行われていることを把握している。

北朝鮮で自殺が多発する背景には、北朝鮮特有の国家建設と社会システムがある。

北朝鮮では2016年5月から、200日戦闘と呼ばれる大増産運動が行われた。こうした大増産運動は、生産量を無理やり増大させるばかりで、様々な弊害と後遺症を生み出す。この200日戦闘でも、ある女性が自殺に追い込まれている。

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両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、金正淑(キムジョンスク)郡で、40代女性が首をつって自殺。動機は200日戦闘に伴う勤労動員を苦にしたことだった。

体調を崩し、勤労動員に参加できないこの女性に対して、保衛員(秘密警察)や保安員(警察官)は、頻繁に彼女の家を訪れ、「なぜ200日戦闘の動員に参加しないのだ」とプレッシャーをかけていた。女性は、これに耐えきれなかったという。

WHOは、北朝鮮に自殺が多い主な理由として、貧困、制約が多い環境に住んでいることによる精神的なストレスを挙げており、女子大生と40代女性の自殺は、いずれもあてはまる。

ちなみに、北朝鮮では覚せい剤など違法薬物の蔓延が深刻な問題となってるが、その背景にも同様の事情がある。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

つまり、金正恩体制そのものが、庶民を自殺に追い込んでいると言っても過言ではない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記