南北首脳会談を控え、韓国軍が対北朝鮮心理作戦の一環として行ってきた拡声器放送を中止した。
韓国国防省は、23日午前0時から軍事境界線一帯での北朝鮮向けの拡声器放送を中止したと発表した。国防省のチェ・ヒョンス報道官は記者会見で「今回の措置は、南北首脳会談をきっかけにした、南北の軍事的緊張緩和と平和会談の雰囲気づくりのためのものだ」と述べた。
1963年5月に始められた北朝鮮向けの拡声器放送は、2004年6月に南北首脳会談の開催に合意したことで中止されたが、北朝鮮側が仕掛けた地雷で自軍兵士の身体の一部が吹き飛ばされる事件に対する報復として、2015年8月に再開された。
(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士…北朝鮮の地雷が爆発する瞬間)同年8月には再び中止されたが、2016年4月の北朝鮮の4回目の核実験への対抗措置として再開された。
これまで北朝鮮は拡声器放送を「反共和国敵対行為」とみなし、強く反発してきた。韓国と対峙する最前線に駐屯する兵士への心理的影響が少なくないからだろうと思われる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮側の最前線では、人里離れたところに少人数の部隊が配置されているケースが少なくない。監視塔での勤務中に拡声器放送に耳を傾けるだけではなく、部隊全員がグルになり、リアルタイムで韓国のテレビ放送を受信。美人タレントの出演するバラエティ番組にクギづけになっているという。
(参考記事:北朝鮮軍の兵士の心の支えは「恋のからさわぎ」)ということはつまり、韓国軍の拡声器放送中止により、北朝鮮側は部分的にせよ軍事的ダメージを克服することができるわけだ。
また、北朝鮮軍に苦痛を強いる拡声器放送は、核開発に対する制裁の一部として行われてきたわけで、それが止められたということは、金正恩氏が最初の「制裁解除」を勝ち取ったものと言うこともできる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面もっとも、韓国軍の拡声器放送は、当初の想定ほど遠くまで聞こえていなかったとの指摘もある。
(参考記事:「聞こえない拡声器」で対北朝鮮放送を続けていた韓国軍)高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。