金正恩氏が「性犯罪スキャンダル」幹部を仲間はずれにするワケ

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金正恩党委員長は先月25日から電撃的に中国を訪問し、習近平国家主席と会談した。訪中時には金正恩氏を支える主要幹部が同行したが、首脳会談ではある人物の姿が見られなかった。

その人物とは崔龍海(チェ・リョンヘ)朝鮮労働党副委員長。過去に変態性欲スキャンダルの醜聞に塗れたとされている人物だ。

女性の歯を抜いて

金正恩氏の訪中に同行したのは、李雪主(リ・ソルチュ)夫人のほか、党の最高幹部である崔龍海、朴光浩(パク・クァンホ)、李洙墉(リ・スヨン)、金英哲(キム・ヨンチョル)、李容浩(リ・ヨンホ)、趙甬元(チョ・ヨンウォン)、金成男(キム・ソンナム)、金炳鎬(キム・ビョンホ)の各氏。2月に韓国の文在寅大統領と会談した金正恩氏の実妹である金与正(キム・ヨジョン)氏は同行しなかった。彼女は妊娠中と見られている。列車での長時間移動は負担が大きいことから、今回は同行を見送ったのかもしれない。

首脳会談には李洙墉、金英哲、李容浩氏が同席したが、崔氏は抜けた。崔氏は日韓メディアからは「北朝鮮ナンバー2」と見られている。その崔氏が訪中したにもかかわらず首脳会談に同席しなかったのは、不自然だと見る向きもある。

しかし、筆者はそもそも、崔氏が「ナンバー2」としての実権を持っているとは思っていない。

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崔氏の父は、金正恩党委員長の祖父・故金日成主席の盟友だった崔賢(チェ・ヒョン)元人民武力部長(国防相に相当)だ。崔氏は、抗日パルチザン時代から金日成氏を支えた人物の息子ゆえに、最高幹部の地位を維持してはいる。しかし女性問題、それもほとんど性犯罪とも言えるほどの変態性欲スキャンダルを起こした過去を持ち、失脚と復活を繰り返してきた札付きの極悪幹部である。

(参考記事:美貌の女性の歯を抜いて…崔龍海の極悪性スキャンダル

崔氏は1994年にも不正が発覚し降格された。2004年には、これも不正の発覚で革命化処分を受けたが復帰。彼を知る人々の複数の情報を照らし合わせると、北朝鮮一のブランド好きで、派手な生活を好むタイプとのことだ。こうしたキャラクターが度重なるスキャンダルにつながったようだ。

金正恩時代に入ってからも度々粛清、または降格の噂が流れているが、どうも金正恩氏は崔氏を軽んじているふしがみられる。少し間抜けな話だが、2015年秋には金正恩氏がコダワリを持っていると見られる極太ズボンをめぐって、崔氏は公衆の面前で恥をかかされたという噂さえあるのだ。

(参考記事:金正恩氏が極太ズボンで部下を殺す日

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その崔氏だが、韓国の統一省は昨年10月、朝鮮労働党組織指導部長に就いたと明らかにした。組織指導部長は北朝鮮の政務と人事を一手に握る要職だ。金正日総書記が1973年から2011年に死去するまで自身が兼務していたほど、重要なポジションなのだ。

金正日氏の死後は妹、つまり金正恩氏の叔母にあたる金慶喜(キム・ギョンヒ)氏、そして金正日氏の次女である金雪松(キム・ソルソン)氏がそれぞれ務めたとの情報がある一方で、韓国の情報機関・国家情報院などは「空席だった」と分析している。

(参考記事:金正恩氏の「美貌の姉」の素顔…画像を世界初公開

ただ、現在の組織指導部長のポストは、過去とは違った位置づけになっている可能性もある。

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金与正氏が文在寅大統領と会談し、李雪主夫人がファーストレディーとして金正恩氏の初外遊に同行するなど、今の北朝鮮は金日成氏を始祖とする金王朝、いわゆる「白頭の血統」を中心とした政権運営が徹底されている。

北朝鮮を分析する時、権力集団の序列は一つの検証材料となってきたが、今後は有名無実化するポストも出てくるかもしれない。多くの高位幹部が粛清・処刑されたように、崔氏の今後も一寸先は闇だ。もっともそうした北朝鮮政治の怖さを骨身にしみてわかっているのは崔氏本人かもしれない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

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