「凶悪事件の増加は政府のせい」金正恩氏の無策に北朝鮮国内から批判

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北朝鮮北東部の町で最近、殺人事件が発生した。地域住民の間からは犯人ではなく、経済制裁で苦しくなった国民の生活を顧みない国の責任だという声が上がっている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、事件の舞台となったのは中国との国境に面した会寧(フェリョン)だ。21歳の女性が金銭問題でケンカとなり、口論の末、相手を斧で殺害したというものだが、詳細について情報筋は明らかにしていない。

逮捕された女性は公開裁判を受け、銃殺刑に処せられた。

裁判に参加した市民の間からは「よほどのことでなければあんなことはしない」という女性に対する同情の声と、「国が経済的に苦しい国民を放置している限り、同様の事件は減らないだろう」という政府に対する批判の声が上がった。

別の情報筋によると、女性が銃殺されたという話が広がるにつれ、世論が動揺し、犯罪そのものではなく国と体制への怒りが広がっている。一般市民ばかりか、犯罪を捜査する司法機関(警察、秘密警察など)の中からも体制批判の声が聞こえるという。

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北朝鮮では、ごく普通の人が凶悪な事件を起こす事例が増えているとされ、司法機関はそれらに対処しきれないことから徒労感を感じており、「住民の生活への対策を立てない限りは、このような状態が続く」と、上層部の無関心を批判する声が出るに至ったというのだ。

会寧を含む中朝国境沿いの町は、合法非合法の貿易で潤い、北朝鮮の中でも比較的裕福な地域だった。ところが、金正恩党委員長が進めてきた核、ミサイル開発に対する国際社会の制裁強化で貿易がほぼストップしてしまい、一部では餓死者が発生するほどの状況となっている。

当局は、「非社会主義現象」を根絶させるとして、密輸、韓流ドラマや映画の流通、視聴などに対して大々的な取り締まりを行い、国内の引き締めを図るばかりで、経済的に困窮した人々に対する対策は立てていない。

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また、そのような状況が、人々を覚せい剤の乱用に走らせる悪循環を招いてもいる。

先日の中朝首脳会談に続き、今月と来月には南北、米朝首脳会談が相次いで行われるが、外国に最も近い地域に住む人々にとって「雪解け」はまだ遠いようだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記