あの話だけはしないで欲しい…金正恩氏、トランプ大統領に懇願か

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北朝鮮が、5月に予定されている米朝首脳会談に向け、人権問題に神経をとがらせている。

朝鮮労働党機関紙・労働新聞は最近、「帝国主義者の『人権』騒動を粉砕すべきだ」(13日付)、「米国は世界最悪の人権蹂躙国、人権抹殺国」(15日付)などと題した論評を相次いで掲載。16日付の論説「帝国主義者の支配権拡張策動に警戒心を高めるべきだ」の中でも、「(帝国主義者は)荒唐無稽な『人権』騒動を起こし、支配主義戦略実現の口実にしている」と述べている。

米トランプ政権は米朝首脳会談の話が電撃的に浮上する直前、大統領と副大統領が相次いで脱北者と面談するなどして、北朝鮮圧迫のための「人権シフト」に動いていた。たとえばトランプ氏は、中朝国境での北朝鮮女性の人身売買を「やめさせる」とまで言っている。

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それだけに、「首脳会談で人権問題を持ち出されるのではないか」と、金正恩党委員長が神経質になっていたとしても不思議ではない。

そもそも、金正恩氏が祖父や父以上に核兵器開発に突っ走った理由は、人権問題にある。

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北朝鮮と米国は、過去にも核問題を巡る話し合いを行ってきた。まとまらなかったのは、根深い相互不信のためだ。その「不信」の中身も様々あるが、北朝鮮側にとっては、人権問題もそのひとつだった。

「安全保障問題で妥結して、いったんは緊張が収まっても、米国はいずれ人権問題を口実に体制崩壊を仕掛けてくるかもしれない」

金正日・正恩親子は、このような恐怖心に取りつかれているが故に、核をあきらめることができなかったのだ。それほどに、人権問題は金正恩体制にとって、重い足かせになっているのである。

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「では、北朝鮮は人権問題でも改善を図れば良いではないか」

読者の中には、このように考える向きもいるだろうが、これが北朝鮮にとっては途方もなく難しい問題なのだ。なぜなら、公開処刑のような人権侵害なくして恐怖政治は成り立たず、恐怖政治なくして、体制の維持は不可能だからだ。

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だから、仮にトランプ氏が首脳会談で人権問題に触れたら、その場で決裂もあり得るのだ。だから金正恩氏は、国内メディアを通じて「その話だけはしないで」と、米国にシグナルを送っているのである。

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高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記