北朝鮮へ帰り「金日成お面」問題で叱られている美女応援団

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2月25日に閉幕した平昌冬季五輪は、白熱した競技そのものはもちろんのこと、突然決まった北朝鮮選手団の出場、美女応援団の参加、金正恩朝鮮労働党委員長の妹・金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長の訪韓などで、全世界の耳目を集めた。

美女応援団は同26日、北朝鮮に帰国したが、期間中に彼女らの応援を巡ってちょっとした騒動が起きていた。実は、北朝鮮にとって美女応援団の派遣は非常に気を遣う取り組みなのだが、やはり、問題をゼロに抑えることはできなかったようだ。

女性応援団のメンバーは、10日に行われた南北合同チームとスイスとの女子アイスホッケーの試合で、男性の顔が描かれたお面(仮面)をかぶって応援した。この様子を韓国CBS(キリスト教放送)系のノーカットニュースが「金日成仮面をかぶって応援する北朝鮮応援団」というタイトルで報じた。

この記事を見た韓国の野党・正しい未来党所属の国会議員である河泰慶(ハ・テギョン)氏は、自身のFacebookに「北朝鮮の応援団が露骨に金日成仮面をかぶって応援している、(北朝鮮は平昌五輪ではなく)平壌五輪だと考えているようだ」とし、韓国が馬鹿にされていると文在寅大統領への批判を展開した。これをきっかけに議論が巻き起こった。

これに対して統一省は「誤った推測」「特定人物の写真ではなく、北朝鮮で美男子仮面と呼ばれているものだ」などと報道を否定したが、議論は収まらなかった。

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翌日になって「金日成仮面」の記事を書いたCBSの記者は誤報だったことを認め謝罪した。また、CBS側もその日の午後に、当該記事は既に削除したことを明らかにした上で、誤報だったと謝罪した。同時に「削除した記事を引用報道したり、政治的主張の根拠にしたりすることはやめてほしい」として、名指しこそ避けたものの、河議員に釘を刺した。

しかし、河議員は13日に出演したラジオ番組で「金日成主席の若い頃の顔であることは確実だ」「金正恩(党委員長)は新世代偶像化を北朝鮮ではなく韓国で実験した」などと主張し、仮面の使用は金与正氏が決定したものだと主張した。

これに対して脱北者から異論が相次いだ。韓国で北朝鮮の伝統芸能を紹介する活動を行っている平壌民族芸術団の代表で、2001年に脱北したチョン・パリョン代表は朝鮮日報の取材に「北朝鮮で金日成氏の写真や絵を少しでも破損させたら即決で処刑の対象となる」として、金日成仮面説を否定した。また、コリア先進化連帯のキム・グァンイン所長も、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材に、特定人物を念頭に置いて作った仮面ではないだろうと述べた。

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実際、北朝鮮において金氏一家の肖像画は命より大切なものとされ、事故や災害の際に命を投げ出して守ったという「美談」が紹介されることもある。それほど大切なものを切り取って仮面にするとは考えられないということだ。

一方、北朝鮮の国家保衛省(秘密警察)での勤務経験がある脱北者はRFAの取材に、仮面は北朝鮮のアニメ「少年大将」の主人公の顔を現代風にアレンジしたものではないかと見ていると答えた。

一連の議論に関連して東亜日報は、北朝鮮筋の話を引用し「北朝鮮当局は『ゴタゴタを起こした』として(応援団の責任者に)大目玉を食らわせたという。南の住民にもっと寄り添えという指示も下した」と報じた。北朝鮮が、韓国に対してかなり気を使っている様子が垣間見える。

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「北朝鮮事情に精通した有能な議員」「これからの韓国の保守を背負って立つ」などとの評価が高く、保守からもリベラルからも人気のある河議員だが、今回の発言で評判を下げてしまう結果となった。ハフポストコリアには「金日成氏の外見を極めて高く(ハンサムに)評価した」と皮肉られる始末だ。河議員は、前述のラジオ出演以降、この件について発言をしていない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記