核よりも「若さ」で勝負している金正恩氏

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4月末に板門店(パンムンジョム)で南北首脳会談を開催することをはじめとする、今回の北朝鮮と韓国の合意には、正直に言って驚いた。

金正恩党委員長は非核化に言及し、対話が続く限り核・ミサイル実験を再開しないと約束した。そのうえ、4月の米韓合同軍事演習の実施にまで理解を示した。韓国紙・東亜日報が7日付で書いている通り、「期待値をはるかに超える破格的な合意」と言える。

では、金正恩氏はいったい、このような約束と引き換えに何を得ようとしているのか。それは、北朝鮮を取り巻く情勢を根本的に作り替えることかもしれない。それを成し遂げるために、彼には核兵器のほかにも、強力な武器が少なくとも2つある。ひとつは「若さ」であり、もうひとつは「独裁権力」である。

金正恩氏はその肥満体型から、健康不安説が根強く囁かれている。また、パーティー狂いなど不摂生の情報もある。

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しかしそれにしては、深刻な持病があるとの話は聞かない。金正恩氏が強力な医療陣に支えられているのは間違いないから、健康面で異変さえ起らなければ、まだ30代前半の若さである彼は、今後30年以上は北朝鮮の最高指導者として君臨し続ける可能性がある。

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一方、絶対的な独裁者である金正恩氏は、選挙で落選する心配がない。国家保衛省(秘密警察)などの治安機関は、かつてと比べれば弱体化した面もあるが、国民に対する恐怖による支配はなお強固だ。

国民らが大規模な反体制運動に出るのはまず無理で、そのような動きが出ても、あっという間に弾圧されてしまうだろう。

(参考記事:抗議する労働者を戦車で轢殺…北朝鮮「黄海製鉄所の虐殺」

また、金正恩氏の警護体制はきわめて厳重であり、権力中枢でのクーデターも、気配さえ感じられないのが現状である。

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このように、長期執権が約束されている金正恩氏は、長期的な目標に向かって外交を行えるという点で、諸外国の首脳よりも優位にあると言える。彼は、韓国の文在寅政権やトランプ政権から、大きな果実を得る必要性を感じていないかもしれない。

ここでいったん、対話を既定路線化してしまえば、話し合いが続いている間は、核戦力を維持できる。研究も続行できる。北朝鮮がなかなか非核化に動かなくても、米韓の側から対話を打ち切るのは難しいだろう。その間にも、制裁包囲網は徐々にゆるんでいく可能性が高い。

政権交代を繰り返す米国や韓国は、場当たり的な対応しかできず、北朝鮮の核武装を既成事実化してしまう危険もある。また、仮に数十年後になって、北朝鮮が核放棄を実行するとしても、それまでに十分な果実を得ていれば、それは金正恩氏の核戦略の勝利ということになる。

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その先に、金正恩氏が北朝鮮のどんな未来図を描いているのかはまだわからないが、彼の「若さ」と「独裁権力」を侮ると、米韓は大きな落とし穴にはまってしまうかもしれない。

(参考記事:【北朝鮮の核開発】金正恩氏は最終的に何を目指しているのか。不確実な未来を予測する

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記