北朝鮮と米国の対話など、しょせんは「茶番」に過ぎない

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米ホワイトハウスは25日、訪韓した北朝鮮の金英哲(キム・ヨンチョル)朝鮮労働党副委員長が文在寅大統領との会談で、「(米朝対話に)十分な用意がある」と意欲を示したことについて「非核化の道に向けた最初のステップになるのかどうかを見極める」との報道官声明を発表した。声明はまた、「いかなる対話も非核化につながらなくてはいけない」と強調し、「最大限の圧力は北の非核化まで続く」と重ねて訴えた。

不満を表したら殺される国

一方、韓国メディアの報道によれば、文大統領は金英哲氏に対し、持論である非核化に向けた「2段階論」を説いたもようだという。

文大統領の「2段階論」とは、まずは北朝鮮が核兵器と弾道ミサイルの開発と実験を「凍結」して対話の場に出てくることで、米国など国際社会が、段階別の制裁緩和などの措置で応じ、最終的に核の「廃棄」を実現するというものだ。

これを米朝双方が飲むならば、とりあえず「対話」は可能だろう。北朝鮮の金正恩党委員長はすでに、核戦力の「完成」を宣言している。完成したのだから、これまでのようにバンバン実験を行う必要はない。当面の「凍結」を宣言することに、不利益はないのだ。

問題は、北朝鮮の「凍結」宣言を、米国が信用するかどうかだ。だが結局、ある程度まで信用して対話を始めなければ、核廃棄を実現する可能性は遠のく。どこかの時点で、米国がこの提案を飲む可能性は高いと筆者は見ている。

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しかし、そのようにして対話が始まったところで、そんなものは茶番に過ぎない。金正恩氏の独裁体制の打倒を目指さない限り、北朝鮮から核がなくなることはないからだ。なぜ、そのように言えるのか。

いま、北朝鮮の国民はたいへんな困難の中に置かれている。国家はただでさえ慢性的な経済難の中にあるのに、無謀な核兵器開発などのために国際的な経済制裁さえ受けている。豊富な地下資源があるにもかかわらず、韓国や日本、米国などとの自由な貿易で外貨を稼ぐのもままならない。そのため、国内生産では足りない食糧を海外から十分に買ってくることさえできず、人々は飢餓の恐怖と隣り合わせの生活を強いられている。

これが日本などの民主主義国家であれば、国民は核兵器開発を強行した政権与党を選挙で敗北させ、国際社会との調和を重んじる新たな政府を誕生させるだろう。

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北朝鮮ではどうか。民衆が政府批判などを行えば、軍隊に虐殺されるか、政治犯収容所で拷問され処刑されてしまう。

想起して欲しいのは、抑圧されている北朝鮮の国民の利益と、地域の安定を望む周辺各国の人々の利益は、大きなところで一致しているということだ。

米国のトランプ大統領とペンス副大統領は最近、立て続けに脱北者と面会し、北朝鮮の残忍な人権蹂躙を非難した。トランプ大統領は、中国で横行する北朝鮮女性の人身売買を「終わらせる」とも語った。

(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち

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しかしそのような問題は、北朝鮮との「対話」がとりあえず始まれば、またもや置き去りにされてしまうのではないか。北朝鮮の民主化なくして、最終的な核廃棄はあり得ないにも関わらずだ。

そもそも金正恩氏は、文政権やトランプ政権との対話で何らかの結果を得ようとすら考えていないのではないか。彼はまだ30代前半と若く、選挙で落選することなど考えずに済む独裁者だ。これから10年、20年の年月をかけて、自らの思い描く未来に近づいていける可能性が、少なくとも時間的な面ではじゅうぶんにある。

文政権もトランプ政権も、「北朝鮮の体制変更は目指さない」ことを早々と表明してしまっているが、その時点ですでに、金正恩氏の土俵に乗ってしまっていると言えるかもしれない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記