北朝鮮は「天安」撃沈については、何らかの理由で関与を否定しているが、延坪島砲撃については、一連の戦闘を勝利で締めくくったものとして誇っているのだ。延坪島砲撃においても北朝鮮は韓国から局地的な反撃を受け、韓国側を上回る戦死者を出したとの情報もある。それが事実であっても、国土を先制攻撃された韓国が大規模な報復に出られなかったため、北朝鮮にとっては政治的な勝利であるというわけだ。
というわけで、勝利した戦闘について「遺憾の意」を表明することは、金正恩氏にとっても心理的なハードルが低いのではなかろうか。とりわけ延坪島砲撃での民間人の犠牲に対して頭を下げることは、対韓国のイメージ戦略としても悪くはない。
ともあれ、韓国は「天安」撃沈に対する報復として、2010年5月24日に「5.24措置」と呼ばれる独自制裁を発動している。これを解除させずには、金正恩氏が「新年の辞」で表明した南北関係の改善が大きく進むことはない。
金英哲氏は、文在寅大統領と会うことになっている。その場で金正恩氏は、どのような「爆弾」を炸裂させるのだろうか。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。