寂しげに帰国する北朝鮮美女たちの行く先

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デイリーNKの対北朝鮮情報筋は、中国遼寧省の丹東駅で今月9日、かつて市内の北朝鮮レストラン(以下、北レス)・平壌高麗館で働いていた女性従業員が集団で帰国する姿を目撃し、その様子をカメラに収めた。

「(北レスの)平壌高麗館が閉鎖に追い込まれ、帰国する従業員もいれば、他のレストランで働く者もいたが、旧正月(16日)を前に30人が帰国した。担当駅前で女性従業員のひとりに行き先を聞くと『平壌です』との答えが返ってきた。親きょうだいが待つ故郷に帰るというのに、彼女らの表情は嬉しそうな感じではなかった。カネ儲けのチャンスがなくなったからだろう」(情報筋)

(参考記事:【画像】帰国の途につく北朝鮮レストランのウェイトレスたち

平壌高麗館は地上5階建て、床面積8000平米の世界最大規模の北レスとして、中朝国境を流れる鴨緑江に面した一等地に2012年2月オープン。地元民や中国人観光客はもちろん、北朝鮮を自分の目で見たいという韓国人観光客が詰めかけ、大盛況となった。

北朝鮮で「接待員」と呼ばれる女性従業員らは、言葉の通じる韓国人ツアー客、その中でも中年以上の人々から、現代韓国の女性には見られない古風でしとやかな立ち居振る舞いが絶大な人気を得たのだ。

そして近年では、特に容姿端麗なウェイトレスの写真がネットで出回り、韓国の若者たちの間でアイドル並みの人気を博している例もある。

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そんな平壌高麗館の行く先に暗雲が立ち込めたのは、2016年2月のことだ。

韓国の朴槿恵政権(当時)は、北レスの収入が核開発やミサイル開発に使われる可能性があるとして、自国民に利用自粛を呼びかけた。これにより北レスには閑古鳥が鳴くようになってしまった。

また昨年9月、国連安全保障理事会は、北朝鮮企業との合弁事業を禁じる内容を含む制裁決議2375号を採択した。それを受けて中国商務省は、国内の北朝鮮系の合弁企業などに対して今年1月9日までの閉鎖を命じた。

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その期限まで持ちこたえられなかった平壌高麗館は、昨年11月にひっそりと店を閉めていた。かつて100店舗もあった中国国内の北レス店舗網は、中国人オーナーが経営する一部を除いて、その多くが姿を消したもようだ。

これにより北朝鮮の外貨収入が減るのはもちろんだが、金正恩体制にとって、問題はほかにもある。

海外の自由な空気に触れた大量の人々が、一度に帰国することだ。北朝鮮当局が、海外情報の流入を厳しく統制してきたのは周知のとおりだ。

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当然、帰国した人々への監視は強化されるだろうが、いかんせん数が多すぎる。国内で、これまでにはなかった情報が出回るのは避けられないだろう。

そして帰国者の中には、そうした閉塞感に耐えられず、トラブルを起こしたり脱北を試したりする人も出てくるかもしれない。米国との対立激化を受けて国内の団結をはからねばならないときに、そうした動きは思いもかけぬ波紋を呼ぶ可能性もある。

国際社会の対北制裁の目的は、一義的には経済的に締め上げて核兵器開発を困難にするというものだ。しかしそれとはまったく違うところで、意外な効果を生む可能性もある。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記