「聞こえない拡声器」で対北朝鮮放送を続けていた韓国軍

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韓国軍が北朝鮮に向けて行っている拡声器放送に絡み、不正が行われたとの指摘がなされた。

これは、韓国の監査院が、国会の要求に応じてまとめた「対北拡声器戦力化事業推進実態」という監査報告書で明らかになったものだ。

拡声器放送は、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の最前線の部隊に勤務する兵士と、軍事境界線付近に住む住民に対する心理作戦として行われてきた。2004年に一時中断されたが、韓国軍は2015年8月、北朝鮮が仕掛けた「木箱地雷」が爆発し自軍兵士2人が足を切断する事件が起きたことを受けて再開。その後、南北対話により再び中断されたが、翌年1月の北朝鮮の核実験を受けて全面再開した。

(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士…北朝鮮の地雷が爆発する瞬間

韓国軍は、拡声器放送拡充のために、高性能の固定型拡声器24台、移動型拡声器16台を購入した。投入された予算は約175億ウォン(約17億8000万円)に上る。

1月31日に発表された報告書によると、韓国軍心理戦団の契約担当者は、特定の業者が有利になるように製品評価基準を任意で変更した。また、吸引型防音壁の納入業者選定においてもこの担当者は、別の業者が最低価格を提示しているかのように虚偽の報告書を作成。軍はこれらに基づき、契約を交わした。

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一連の疑惑が持ち上がった2016年7月から軍検察が捜査に乗り出し、同年11月に担当者を逮捕。監査院は今回の報告書で、不正利得の返還を業者に要求している。

ところが、問題は金銭のほかにもあった。

韓国のテレビ局JTBCによると、導入された拡声器は10キロまで音が届くことになっていたが、陸軍が昨年調査を行った結果、5キロしか届かないことがわかったというのだ。無人の非武装地帯を除いて考えると、北朝鮮領の1キロ範囲にしか音が届いていないことになる。多額の予算を費やしながら、想定した効果が得られていないということだ。

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韓国の「防産非理」(軍と軍需関連産業の汚職)は極めて根が深く、海軍艦艇に軍用ソナーではなく魚群探知機が積まれていた、などという話まである。

軍紀の乱れ方は北朝鮮も相当なものだが、韓国軍もいざという時に役に立つのか心配だ。

文在寅大統領は昨年7月、「防産非理は単純な不正行為ではなく、安全保障に穴を開ける利敵行為」だと指摘した上で、再発防止のための制度改善の国を挙げての努力が必要だと発言している。

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これと同じことは朴槿恵前大統領も言っていたが、本当に抜本的な改善が可能なのだろうか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

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