北朝鮮の金正恩党委員長の異母兄・金正男(キム・ジョンナム)氏が昨年2月、マレーシアで殺害された事件で、実行犯の東南アジア女性2人の公判が29日、首都クアラルンプール郊外の高等裁判所で開かれた。
証人として出廷したマレーシアの捜査関係者は、この場で初めて、金正男氏が殺害の4日前に同国北部のランカウイ島で、韓国系米国人の男性と接触していたことを公式に認めた。
これと同様の情報は、昨年5月の段階ですでに、朝日新聞が報じていた。気になるのは韓国系米国人の素性だが、捜査関係者は「思い出せない」などと述べ、回答を避けたという。
デイリーNKジャパン編集部の取材によれば、正男氏は生前、米国政府から銀行送金により、毎月一定額の資金援助を受けていたとの情報がある。もちろん、送金は第三者の口座を介して行われたそうだが、実はその第三者は日本人であった可能性があるのだ。
今回の公判で韓国系米国人の素性がわかれば、金正男氏を巡って米国内にどのような動きがあったかを知る有力な手掛かりになっただろうが、やはり、そのような情報はそう簡単には出てこない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面いずれにしても、金正男氏と米国政府との間に接触があり、そのことを北朝鮮当局に知られていたとしたら、それこそが殺害の引き金になったとも想像できる。
(参考記事:金正男氏を死に追いやった「暴露スクープ」の中身)実際、正男氏の旅程は北朝鮮当局によって完璧に把握されていたと見られており、少なくとも韓国系米国人と接触していた事実は捕捉されていたのだろう。
(参考記事:金正男氏を「暗殺者に売った」のは誰か…浮かび上がる「裏切り者」の存在)それにしても、同じ父親の血を引きながら、金正男氏と異母弟・妹たちの運命の明暗の差はあまりに大きいと言わざるをえない。30代前半の若さで世界を騒がせる指導者となった金正恩氏は言うまでもなく、その妹である金与正(キム・ヨジョン)氏までが、今では北朝鮮政治の表舞台に立っている。その舞台は、世が世なら金正男氏を中心に回っていた可能性があるのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ちなみに、金正恩・与正氏ら兄妹の母親は日本の生まれ育ちだ。金正恩氏は幼少の頃、母親に連れられ日本に他人名義のブラジル旅券で密入国していたとの情報もある。
(参考記事:金正恩と大阪を結ぶ奇しき血脈)そして金正男氏は、同じく他人名義の旅券で日本への潜入を図り、摘発されたことが父の後継者候補から外れた原因になったとされる。
現状では、日朝関係が今後、改善することなどあり得るのかと思えるほど険悪な情勢になっているが、金王朝と日本は、実は見えないところで様々な因縁を結んでいるのである。
(参考記事:「喜び組」を暴露され激怒 「身内殺し」に手を染めた北朝鮮の独裁者)高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。