秘密警察も検察官も「寄生虫だらけ」に…金正恩式「恐怖政治」の新展開

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北朝鮮・三池淵(サムジヨン)管弦楽団の玄松月(ヒョン・ソンウォル)団長率いる一行7人は21日、平昌オリンピックに合わせて行われる芸術団の公演の事前調査のため韓国を訪れた。

一行が、最低でも1泊3万円ほどするデラックスホテルに滞在し、豪華な食事を楽しんでいたころ、北朝鮮の幹部たちは汗と人糞にまみれて働いていた。新年の恒例行事「堆肥戦闘」、つまり畑に撒く肥料の原料になる人糞集めに駆り出されたのだ。

堆肥戦闘は肉体的・精神的に苦痛であるだけでなく、寄生虫に感染して腸が回虫だらけになるリスクも高いことで知られる。

(参考記事:必死の医療陣、巨大な寄生虫…亡命兵士「手術動画」が北朝鮮国民に与える衝撃

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、当局は例年以上に堆肥戦闘に熱を入れている。その流れで、今まで楽をしていた幹部たちも作業に動員されている。

「例年なら3〜4日顔を出すだけの幹部たちも、今年は20日間も堆肥生産の現場に駆り出され、クタクタになっていた。党や行政機関はもちろん司法機関の幹部まで1人1日あたり100キロの堆肥生産を命じられた。上級機関は、傘下単位に、幹部の動きを徹底的に統制するよう指示を下した」(情報筋)

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司法機関とは人民保安省(警察庁)、国家保衛省(秘密警察)、検察所のことを指す。北朝鮮の体制を支える機関だけあって、今までは大きな顔をしていられたが、今年からは「(だからこそ他の機関の)手本になれ」ということになったようだ。

国家保衛省に対しては昨年から大々的な粛清が行われ、トップを務めた金元弘(キム・ウォノン)氏は自ら身を引いたとも、収容所送りになったとも伝えられている。そんな状況で面倒を起こせばどんな目に遭うかわからない。それで、泣く子も黙る国家保衛省の幹部も、おとなしく従うしかないというわけだ。

そんな彼らの姿を見た住民の間からは「ざまあみろ」との声が上がっている。

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「司法機関の取り調べを受けたことのある人々は、『庶民を怒鳴りつけていた保安員や保衛員、検察の幹部は、われわれがどれだけしんどい仕事をしてきたか思い知るべきだ』と口々に言っている。『横柄に振る舞い、ワイロを絞り取ることだけを考えている連中が、汗と鼻水を垂らしながら堆肥を運んでいるのを見ると、スッキリする』という人もいた」(情報筋)

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

ただ、今まで楽をしていた幹部に仕事が振り分けられたといっても、庶民の負担が減ったわけではない。従来、ノルマ達成状況の確認は年に1回だったが、今年からは1日1回にになったからだ。毎日急き立てられるため、要領良く暇な日にまとめてやることができなくなった。

また、当局からは「『堆肥確認書』で誤魔化そうとするな」という警告も下された。ブローカーと協同農場の幹部がグルになって、虚偽の「堆肥確認書」(堆肥を受け取ったことを示す書類)を発行し、販売する行為が横行しているが、これに対して釘を差したものだ。

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こんな状況なので、ご近所さんとの関係もギスギスする一方だ。

「(家の外にある)トイレには外側から鍵をかける。それほど泥棒が多いということだ。隣人間で人糞を巡りトラブルになることもある」(情報筋)

いずれにしても、司法機関の幹部までが堆肥戦闘に動員されるようになったのは、部分的にせよ北朝鮮の「ささやかな民主化」と言えるかもしれない。金正恩党委員長が自らこれに参加するなら、それは相当、注目すべき動きと言える。

金正恩氏はそれが嫌なら、国民をツライ堆肥戦闘から解放するためにも、核開発を止めて対外関係を改善し、化学肥料の調達に力を入れるべきだ。

(参考記事:北朝鮮の亡命兵士の腸が寄生虫だらけになった理由

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記