金正恩「拷問部隊」の飢餓状態でただよう不穏な空気

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かつての北朝鮮は、世界でも類を見ない配給国家だった。大多数の北朝鮮国民は、国から配給される食糧や生活必需品に頼り、決して豊かではないが安定した暮らしを営んでいた。

それが変わり始めたのが、共産圏の崩壊が相次いだ1980年代のことだ。1987年ごろから食糧の配給量が減り始め、1990年代に入って遅配が増加した。そして、1995年ごろからは配給が完全に途絶えてしまったのだ。

そのとき、「食糧問題はいつか国が解決してくれる」という考えを変えられなかった人々は、次から次へと餓死した。その数は数十万人単位になると言われている。これが、1990年代後半の食糧難「苦難の行軍」だ。

そんな時代でも、配給が得られていたのが国家保衛省(秘密警察、当時は国家安全保衛部)と人民保安省(一般警察、当時は社会安全部)の関係者だ。独裁体制を支える「恐怖政治」の執行機関として、軍よりもはるかに厚遇されていたからだ。

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とくに、政治犯に対する拷問や公開処刑を担当する国家保衛省の権限は絶大であり、彼らなくして今日の金王朝はなかったとも言える。

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しかし今、そんな彼らに対する配給が止まってしまっているという。咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋が、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に伝えたところによると、配給が途絶えたのは昨年末からのことだ。

「地方の保衛員に行われていた配給が昨年12月から途絶えた。一時的なものかどうかはわからないが、こんなことは初めてだ」(情報筋)

また、別の情報筋も「清津(チョンジン)市の羅南(ラナム)区域の保衛部は、配給が途絶えてから2ヶ月になる」と伝えた。市内の他の区域でも状況は同じだとのことだ。

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実際は過去にも配給の停止があった。2012年9月、両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、現地の保衛部などへの食糧配給が途絶えたと伝えた。しかし、その後再開したものと思われる。

町では、今回の配給停止の話題で持ち切りだ。地域住民は「ありえないことが起きている」と騒いでいる。詳細は不明だが、過去の配給停止とは何か様子が違うようだ。ちなみに、再開されるかどうかについては何ら情報がないとのことだ。

情報筋は「配給中断は道内だけなのか全国的に広がっているのかわからない」としつつも、保衛部への配給が途絶えるぐらいなら、国全体が深刻な状況に陥っているのではないかと住民の間には緊張が走っていると伝えた。

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心配事はそれだけでない。食糧事情がひどくなれば、保衛員、保安員による横暴がひどくなるおそれがあるからだ。

普段から、保安員や保衛員は、市場の商人に上納金やショバ代をを要求する。それ以外にも、保安署(警察署)の署長や幹部に肉と酒を納めなければならない。拒否すれば商売を禁止し、商品を押収した上で、罰金をむしり取る。配給の停止で、生き残るためにカツアゲに精を出すのが火を見るより明らかだということだ。

今回の配給中断が、食糧難の深刻化によるものかどうかは、今のところわかっていない。しかしいずれにしても、国際社会による経済制裁の影響とは無関係ではないはずだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記