北朝鮮で「堆肥戦闘」――つまりは肥料づくりのための人糞集めで「パニック」が生じていることについては、本欄でも紹介した。国の経済・農業政策によってできたツケを国民が払わされている形だが、ただでさえ地獄の苦しみを味わっている人々に、追い打ちをかけるようにさらなる災いが降りかかっている。
(参考記事:北朝鮮国民の腸を「寄生虫だらけ」にする人糞集めでパニック発生)北朝鮮のデイリーNK内部情報筋は、堆肥戦闘のために3月まで忙しすぎる日々が続くと嘆く。
「家にいる暇がないほどだ。人糞を集めて、生きていくために市場で商売して、『新年の辞』の学習までしなければならない。休みたくても休めない」(情報筋)
1週間のうち3日は人糞集めに当て、学習会、講演会、政治集会に2回参加し、その合間を縫って市場に出かけて商売をするという日々だ。人糞集めの1人あたりのノルマは年々増え、1.2トンから1.5トンにも達する。
このような状況で、北朝鮮の人々を悩ませているのが泥棒だ。人糞そのものを盗む泥棒もいれば、人糞集めで留守にした家を狙った空き巣も横行している。被害者は、犯人が誰かおおよその目星を付けているものの、あえて触れないようにしているという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面空き巣が多発しているのは、江原道(カンウォンド)の元山(ウォンサン)だ。現地の情報筋によると、犯人は朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士である疑いが強いという。
軍事境界線に面している江原道は、もともと人口の半分が兵士で占められているような土地柄だ。昨年の凶作で軍糧米(軍用食糧)が不足し、兵士たちは腹をすかせている。それで、人糞集めで留守にしている家を狙って空き巣に入っているものと見られる。保安署(警察署)は、兵士による犯罪に手を出せないため、お手上げのもようだ。
住民が家に戻ったところで空き巣と鉢合わせになり、取っ組み合いのケンカになり、最悪の場合は殺人事件へと発展してしまうことすらあるという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面性的虐待や配給品の横流しなど、北朝鮮軍の軍紀の乱れは周知のとおりだが、これでは国を守っているのだか襲っているのだかまるでわからない。
一方、朝鮮労働党機関紙の労働新聞は14日付で、ある協同農場で生物活性堆肥と藍藻類を混ぜた藍藻類生物学堆肥を撒いたところ、1ヘクタール当たりの収穫量が1割増えたと報じている。不足する化学肥料を補うために人々を動員し、莫大な国力を消耗している人糞集めだが、どうやら当局は今後も続ける気満々のようだ。これでは北朝鮮の人々の腸内から寄生虫が消える日は来ないだろう。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。