北朝鮮の相次ぐ核実験によって、実験場付近の住民が放射能汚染に侵されている可能性が指摘されている。9日付の毎日新聞は、北朝鮮の地下核実験場がある咸鏡北道(ハムギョンブクト)吉州(キルチュ)郡豊渓里(プンゲリ)付近に住んでいた脱北者2人に、染色体異常が生じているという調査結果を報じた。
政治犯に強要
金正恩党委員長が最高指導者になってから、北朝鮮は4回の核実験を強行した。とりわけ2016年から2017年の2年間には、3回もの核実験が行われている。実験は地下で行われたが、放射能による土壌汚染が進み核実験場付近に住む人々が何らかの悪影響を受けている可能性は十分にある。毎日新聞によると、染色体異常の調査結果は、韓国の研究者が収集したデータを日本の広島の専門家が確認して判明したものだという。
北朝鮮の核開発に関わる数千人の労働者が、放射能汚染に晒されている可能性は2006年に行われた1回目の核実験直後から指摘されてきた。ウラン鉱山で働く労働者の平均寿命が他の地域に比べ著しく短く、放射能汚染による奇形児出産も多発しているという情報については本欄でも報じたことがある。
韓国の大手紙・朝鮮日報は昨年11月、吉州郡出身の脱北者の証言として「吉州の産婦人科病院で肛門と性器のない赤ちゃんが生まれたという話を親戚から聞いた」と伝えた。この脱北者によると、吉州ではその地形上、住民は豊渓里に流れている水を飲む。つまり日常的に放射性物質に汚染された水を飲んでいる可能性が高いのだという。
ウラン鉱山で働く労働者や核実験場近くで働く住民たち以上に被ばくの危険にさらされているのが、強制収容所に収監された政治犯たちだ。実は、豊渓里近くには、悪名高き政治犯収容所「16号管理所」(化成強制収容所)が存在する。
(参考記事:赤ん坊は犬のエサに投げ込まれた…北朝鮮「人権侵害」の実態)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
ここに収容された政治犯が、核実験施設で防護服なし、すなわち放射能に被ばくしながら強制労働させられているという証言がある。
収容所の警備兵出身で脱北者のアン・ミョンチョル氏は、「若くて元気な政治犯たちがトラックに乗せられ、『大建設』という名目で核実験施設に連れて行かれた」と証言した。彼によると、それ自体が恐怖の対象だったという。
アン氏は、強制的な被ばく労働以外にも衝撃的で生々しい政治犯収容所実態を明らかにしている。例えば「母とその子は収容所内の懲罰棟に連行され、赤子は犬のエサの器に投げ込まれた」など、強制収容所内で常態化している残虐な人権侵害などについても証言し、その多くが「北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)」の最終報告書に収められている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面金正恩氏が執着する核開発は、周辺国にとって脅威であるのみならず、自国民の安全をも脅かしている。しかしそんなことは、北朝鮮の独裁者にとっては屁でもないのだ。放っておいても、民主主義国家のように選挙で落選するわけでも、デモによって打倒されるわけでもない。民衆が抗議の声を上げようものなら、軍隊を投入して殺してしまうだけだ。
要するに、民主主義の存在しないことが、北朝鮮の核開発を可能にしているのである。だから北朝鮮に核を放棄させるためには、まずは北朝鮮の民主化が必要なのだ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。