「アメリカ軍に勝てるはずない」北朝鮮から漏れてきた不安の声

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米国が北朝鮮に対して様々な軍事的デモンストレーションを行った今年、北朝鮮国内でも、「戦争が始まるかも知れない」との危機感が漂ったもようだ。

とくに9月3日に6回目の核実験が行われた直後に、様々な声が漏れ伝わってきた。 咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋はこの時期、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に対し、次のように語っていた。

「平壌などでは水爆実験の成功を祝う行事が目白押しだが、一部の幹部らの間では、米国との間で戦争が起きるかもしれないとの見方が広まっている。主に中堅幹部が不安を募らせているようだ。中央は『仮に米国が攻撃してきても、米国を撃破し勝利するであろう』と宣伝しているが、地方の幹部らはこれをまったく信じていない」

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地方の幹部らがこうした宣伝を信じないのは、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)内部での物資の横流しや性的虐待といった、軍紀びん乱についても知り抜いているからだ。

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核兵器を使う以外に、北朝鮮には米韓軍への対抗手段がない。そして核兵器を先制使用すれば、それは結局、北朝鮮の破滅を意味する。北朝鮮の人々にとって、戦争はすなわち死を意味するのだ。

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そのような絶望は諦念につながり、人々が「愛国心」を維持するのを難しくさせる。RFAの情報筋によれば、戦争勃発を恐れる中堅幹部たちは、ワイロを貯めて築いた不動産などの資産を処分し、今のうちに金塊に変えて置こうと血眼だという。

金塊に変えてどうするかと言えば、戦争が始まったらそれを抱えて、中国にでも逃げようと考えているのだろう。

戦争は、軍隊だけで戦うものではない。各種の行政を支える中堅幹部がこの体たらくでは、北朝鮮が積極的に戦争計画を立てるのは不可能だ。

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一方、北朝鮮の国境都市、新義州(シニジュ)では今月、「米軍が北朝鮮を爆撃する」との噂が広がった。中国のデイリーNK対北朝鮮情報筋によると、このような噂が広まり始めたのは今月10日ごろのことだ。それも「攻撃は18日から20日までの間に行われる」とかなり具体的なものだったという。

情報筋によると、このような噂は朝鮮人民軍が意図的に流した可能性があるという。おそらく国内の引き締めをねらったのだろうが、噂はさほど広範囲には広がらなかったようだ。北朝鮮の人々も「危機」の喧伝が繰り返されるうちに、根拠の薄弱な噂に対する耐性が強まっているのかもしれない。

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高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記