北朝鮮の金正日総書記が死亡してから、17日で6年が経った。金正日氏から権力を世襲して誕生した金正恩体制については当初、多くの北朝鮮ウォッチャーが「5年ももたないのではないか」と見ていた。
しかし、現実にはそうなっていない。
金正恩党委員長は、父親を上回る勢いで核兵器開発に邁進。今のところ、国際社会の制裁下においても強硬な姿勢を崩していない。同時に、やはり祖父や父親に劣らぬ無慈悲な恐怖政治によって、国内の安定も保っている。
一方、金正恩氏には祖父や父親と明らかに異なる部分がある。まず、メディアへの露出だ。
金正日氏は生前、神秘性を保つ目的もあってか、あまりメディアに登場しなかった。たまに写真や映像が公開されても無表情で、キャラクターをうかがい知るのは困難だった。そのせいで、日韓や欧米では長らく、「父の庇護がなければ何もできない愚息」とのイメージを持たれていた。しかし1990年代後半から、徐々に外国要人との会見に積極的になり、そこで披露されたユーモアと自信に満ちた独裁者の姿に、国際社会は驚かされたものだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面一方、金日成氏はメディアを駆使したイメージ戦略で、「慈愛に満ちた国父」であるかのようにアピール。政敵を家族もろとも処刑する冷酷な素顔を巧みに隠した。
金正恩氏のイメージ戦略は、外見的にも似ている祖父を真似ているとされる。たしかにそういった部分はあるが、メディアへの登場の仕方はより大胆だ。「こんなのまで載せて大丈夫!?」と思ってしまうような写真が、国内メディアで公開されることもある。
(参考記事:金正恩氏が自分の“ヘンな写真”をせっせと公開するのはナゼなのか)次に金正恩氏が独特なのは、愛妻家をアピールしていることだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面金日成氏の最初の妻で金正日氏の実母である金正淑(キム・ジョンスク)氏は、国母としてまつり上げられている。また、金日成氏の後妻である金聖愛氏は、一時的にせよ公職に就き、権力の一端にあった。それでも金日成氏は孫のように、まるでデートを楽しむかのように妻を現地視察に連れ歩きはしなかった。
金正日氏に至っては、妻を公の場に登場させたことは皆無だ。複雑な女性遍歴のために、やろうにもできなかったのかも知れない。
(参考記事:金正日の女性関係、数知れぬ犠牲者たち)金正恩氏が美人妻をしょっちゅうメディアに登場させ、愛妻家をアピールするのは、父の女性遍歴の激しさに反発してのことだとの見方がある。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ただ、脱北者で平壌中枢の人事情報に精通する李潤傑(イ・ユンゴル)北朝鮮戦略情報センター代表によれば、金正恩氏は2009年2月頃、「喜び組」メンバー90余人を新たに選抜していたという。
(参考記事:将軍様の特別な遊戯「喜び組」の実態を徹底解剖)2009年といえば金正日氏の存命中の出来事だが、金正恩氏は最近、喜び組も管轄する護衛総局への信頼を強めているとされ、同局の組織はそのまま維持されている可能性が高い。
さらには金正恩氏にも、父と似た「パーティー狂い」であるとの情報もある。
やはり、親子の血は争えないということか。
(参考記事:北朝鮮「秘密パーティーのコンパニオン」に動員される女学生たちの涙)高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。