「夜が強くなるから」薬物におぼれる金正恩時代のエリートたち

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北朝鮮当局が違法薬物の取り締まりを強化していると、韓国の北朝鮮情報ニュースサイトであるニューフォーカスが伝えている。

北朝鮮の内部情報筋はニューフォーカスに対し、次のように語っている。

「最近、当局は薬物取締に関する中央党の指示文を全国の企業所、人民班(町内会)、学校に通達した。指示文には、薬物の使用は社会主義の精神を弱める毒と同じであり、国家の指示に背き乱用した者について『内部の反逆者』として扱うと警告している」

北朝鮮において、国家に対する「反逆者」は死刑もしくは政治犯収容所送りの対象になる。一般の刑事犯とは次元の違う重罰を受けるということだ。

しかしこの情報筋は、こうした指示の効果について疑問視している。

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「わが国においては、薬物を使用する人の数がますます増えている。とくにひどいのが保安員(警察官)だ。彼らは捜査で没収した薬物を上部に提出したり廃棄したりせず、自分たちで使っている。裁判官たちも同様だ。そんな状態で、どうやって薬物の乱用を根絶するのか。はっきり言って、わが国には『内部の反逆者』ばかりが暮らしているような状態だ」

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち )

ただ、金正恩政権が薬物の取り締まり強化を打ち出すのも、状況のひどさを認識しているからであるとも考えられる。北朝鮮の国内事情に詳しい中国朝鮮族のある貿易業者は、次のように語る。

「北朝鮮の貿易業者のほとんどが覚せい剤中毒者だった。そのせいで、時間も守らなくなり、約束も平気ですっぽかす。国境都市の新義州(シニジュ)にいた有能な若い業者は、皆覚せい剤に手を出し、まともな人はいなくなった」

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北朝鮮で最も多く乱用されている薬物は覚せい剤だが、売人たちは「トンジュ」(金主)と呼ばれる富裕層に狙いを定め、「夜の生活(性生活)が強くなる」「痩せる」「頭がスッキリする」などと甘い言葉で誘い、覚せい剤を売りつける。中毒にさせて、常連客にするのである。

日本では最近、男性芸能人が女性と一緒に薬物を使おうとしたところを摘発された事例が目立っているが、北朝鮮においても似たようなことが起きているのだ。

また、トンジュは市場経済化の進む北朝鮮における新興エリートであり、彼らの没落は社会の退廃にもつながりかねない。

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こうした現状をただす上で、金正恩政権が有効な手を打てていないのは前述したとおりだ。だが、日本においても薬物の乱用が止まらないことにも表れているとおり、問題の解決は簡単なことではない。

北朝鮮社会が薬物汚染から脱出できる可能性は、あまり高くないと考えるべきだろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記