金正恩氏も手を焼く北朝鮮「売春ビジネス」の実態

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北朝鮮では、1990年代の未曾有の食糧危機「苦難の行軍」のころから、生き抜くために売春を行なう女性が現れたと言われている。食糧事情が落ち着いた今でも、売春はなくなることはなく、今では組織化されたビジネスとなっている。

このような状態に業を煮やした金正恩党委員長は、新たに徹底取り締まりの指示を下したが、その実効性に疑問の声が上がっていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋がRFAに話したところによると、各道の人民委員会(道庁)行政指導局に「行政指導局常務」という組織が作られた。これは、昨年末に解体された「3・12常務」に替わる組織だ。

金正恩氏は、2014年3月9日に行われた最高人民会議代議員選挙に投票しなかった者を徹底的に監視せよと同年3月12日に指示を下した。それに基づき作られたのが「3・12常務」だ。

北朝鮮では、選挙で投票しなかった人は脱北したり違法な商売をしたりしていると見られ、監視と取り締まりの対象となる。その違法な商売に、売春や賭博が含まれているというわけだ。

(参考記事:【動画:単独入手】 北朝鮮で「生計型売春」が増加

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金正恩氏は2015年5月20日と2016年8月4日に「社会奉仕網を営んでいる機関が、売春と賭博を煽っている、変態的で風変わりな行為を煽る者を追い詰め、法的措置を行え」という指示を下した。

しかし、3・12常務は売春、賭博を充分に取締できないまま昨年末に解散させられた。金正恩氏は今月初め、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)内の保衛部(秘密警察)から「売春と賭博は根絶されていない」との報告を受けた。そして内閣と司法機関の幹部を呼びつけ「私が指示を下したときだけに取り締まるふりをしている」と強く叱責したとのことだ。

青くなった内閣は、各道人民委員会の行政指導局に「行政指導局常務」を結成させたというわけだ。

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しかし、この新組織に対しては「役不足」との声が出ている。

両江道(リャンガンド)の情報筋は、国家保衛省が関与していた3・12常務と異なり、行政指導局業務は単なる地方政府の組織に過ぎないと指摘する。つまり、にらみが聞かないというわけだ。

それに、売春を取り仕切っているのは、主に外貨稼ぎ機関だ。経営するレストラン、マッサージショップ、サウナ、理髪店に個室を作り、昼夜問わず売春と賭博を行っている。

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外貨稼ぎ機関は資金力と政治力に優れ、人民委員会のような地方の行政組織の幹部と癒着している。摘発する側とされる側がグルになっているのに、成果が上がるわけがないということだ。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

ちなみに、北朝鮮では刑法249条の「売淫罪」により、「売淫行為を行った者は1年以下の労働鍛錬刑に処す。前項の罪状が重い者には5年以下の労働教化刑に処す」とされている。ただ、最高指導者が「風紀を正せ」などと厳命した際には、見せしめとして銃殺刑にされた事例も少なくない。

(参考記事:北朝鮮、組織化する売春業…バス停が「風俗案内所」

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記