13日に板門店の共同警備区域(JSA)から韓国側に亡命する過程で北朝鮮側から銃撃を受け重傷を負った朝鮮人民軍(北朝鮮軍)兵士オ・チョンソン氏。彼の回復ぶりや、バックグラウンドについて韓国メディアが報じている。
韓国・東亜日報系のテレビ局、チャンネルAは、国会国防委員会の関係者の話として、オ氏の父親は、朝鮮人民軍警務隊(憲兵隊)の幹部(中佐かもしくは大佐)だと報じた。ただし、現役の軍人かはわからないとのことだ。
チャンネルAはさらに、オ氏が「大学に行って法学を勉強したい」と言っていること、一般兵士の履く足袋ではなく軍では配給されない白い靴下を履き、高級幹部の運転兵をしていたことなどを挙げ、上流階級の出身だろうと報じている。
(参考記事:金正恩氏のベンツを追い越して粛清…北朝鮮「運転兵」の天国と地獄)世界北韓研究センターの安燦一(アン・チャニル)所長は、チャンネルAの取材に、警務隊の中佐は、出身成分(身分)が良く姜健(カンゴン)軍官学校を修了していなければなれないとして、オ氏の父親は今後さらなる出世が望めるポジションにいる人物だろうと述べた。
ちなみに姜健軍官学校は、平壌郊外にある北朝鮮の士官学校で、玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)元人民武力部部長が高射銃で撃たれて処刑されるなど、高級幹部の処刑場としても知られる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面統一省は、脱北者を対象に行なった調査で、北朝鮮男性の平均身長は165センチであるとの結果を明らかにしているが、オ氏は身長170センチ、体重60キロで、北朝鮮の男性としては比較的、体格が大きい。
また、手術を執刀した亜洲大学病院のイ・グクチョン教授は、韓国メディアの取材に、オ氏と握手をしたが、回復中なのに海軍のUDT(特殊戦旅団)の隊員のように筋肉の力強さを感じた、俳優のヒョンビンに似たマッチョな青年のように見えたと述べた。
オ氏を巡っては、体内から大量の寄生虫が発見されたことで、北朝鮮軍の栄養、衛生状態の劣悪さが取り沙汰されているが、バックグラウンドや体格を見る限り、栄養状態には問題がなかったものと思われる。むしろ、肥料を人糞(下肥)に頼らざるをえない、北朝鮮の農業事情によるものと言えよう。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面2回にわたる大手術を受けたオ氏だが、順調な回復ぶりを見せている。
韓国の京仁日報は、オ氏が11月28日に重患者室からVIP用の一般病室に移され、重湯や水キムチに加え、一般の病院食を食べられるほど容体が安定し、テレビを見て楽しんでいると報じた。
また、チャンネルAによると、オ氏は当初ハリウッド映画を見ていたが、今は日韓両国で活躍する総合格闘家でタレントの秋山成勲さん(韓国名:秋成勳)、妻のSHIHOさん、娘のサランちゃんが出演するバラエティ番組を見ている。また、漫画本も読んでいるとのことだ。いずれも心理面で治療の助けになるとの理由からだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面今後、さらに容体が安定すれば、亜洲大学病院から陸軍統合病院に転院する可能性がある。また統一省によると、退院後は北韓住民保護センターで国家情報院、警察庁、国防省、統一省、機務司令部などの合同尋問を受けることになる。通常は最大180日だが、韓国に亡命した北朝鮮元駐英公使のテ・ヨンホ氏の尋問が、通常の最大3ヶ月を大幅に超える6ヶ月だったように、オ氏の尋問期間も長くなる可能性が指摘されている。
また、通常の脱北者は、教育施設のハナ院で韓国生活のノウハウを12週間学んでから韓国社会に出るが、オ氏のバックグラウンド次第では、国家情報院の保護対象となる可能性もあるとのことだ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。