粛正に次ぐ粛清…金正恩体制の深奥部に「特異動向」が見える

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韓国の情報機関・国家情報院(国情院)は20日、国会情報委員会で、北朝鮮の朝鮮労働党組織指導部が朝鮮人民軍(北朝鮮軍)総政治局の「不純な態度」を問題視し、20年ぶりとなる検閲を進めていると報告。その過程で、黄炳瑞(ファン・ビョンソ)総政治局長や金元弘(キム・ウォノン)第1副局長をはじめ、相当数の幹部が処罰されたもようだと明かした。

金元弘氏は今年初め、秘密警察である国家保衛省(以下、保衛省)のトップから解任されたばかりだ。国家保衛省は、政治犯収容所の運営や公開処刑を担う、恐怖政治の柱である。

北朝鮮の高位幹部が「革命化(再教育)」などの処分を受けるのはよくあることだが、保衛省のトップだった人物が短期間に2度続けて処分を受けたとすれば、その背景が気になるところだ。

そう思っていたら、朝日新聞と東京新聞が25日の朝刊に、この情報の詳報とも言える記事を掲載した。朝日新聞の記事は、新たな保衛省トップに党中央軍事委員のチョン・ギョンテク氏が就任したというものだ。一方、東京新聞の記事は、金元弘氏が今月1日前後、自ら身を引く形で、平壌西部の協同農場の農場員になったとする内容である。

この2つの記事は、あることを示唆しているように見える。それは、総政治局に対する検閲と並行して、保衛省の「構造改革」とも言える動きが進んでいる可能性だ。

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保衛省を巡っては最近、2つの大きな動きが見られる。ひとつが、前述した金元弘氏の解任だが、この際、同省では大規模な検閲が行われ、相当数の幹部が処刑されたと伝えられている。理由は、越権行為である。保衛省は昨年、韓流ドラマなど海外エンタテインメントを密かに視聴する風潮に対する大々的な取り締まりを実施し、粛清の嵐を巻き起こした。

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そこで摘発された人々の中にはかなりの高位幹部も含まれていたのだが、そのような場合、党組織指導部の許可を得て捜査を行わなければならないのに、保衛部がその規律を無視したというのだ。そのような横暴に対し、党組織指導部が反撃を加え、金元弘氏の解任に至ったというのが第1弾の動きである。

そして第2弾は、金正恩党委員長が最近、自身が執権して以降の5年間に行われた政治犯の処刑・粛清について「全面的に再調査せよ」との指示を下したというものだ。きっかけになったのは、前述した保衛省の越権行為に対する検閲である。その過程で、同省が主導した粛清の相当部分が、特定の有力者が自分の政敵を抹殺するために虚偽の密告を行って仕組んだ「謀略」だったと判明したというのだ。

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金元弘氏が農場員になったという話が事実ならば、それはもしかしたら、この「再調査」の結果を恐れてのことではないのか。

しかし、保衛省がこうした「濡れ衣」による粛清を行っているのは、北朝鮮では公然の秘密だった。保衛省の要員らは、富裕層に「濡れ衣」を着せて逮捕し、身代金を脅し取るといった恐喝ビジネスで収入を得てきた。そして時には、証拠隠滅のために処刑してしまうのである。同省が党に上納する外貨も、そのようにして集められたカネだ。

それがここへ来て、ここまで徹底的な追及が行われるとは、やはり北朝鮮の権力構造の深い所で特別な動きが出ている可能性がある。だとすれば、この一連の動きは今年初めの時点から、同じ流れで起きていると見るべきかもしれない。

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いずれにせよ、これが金正恩氏の意思によるものであることは間違いないだろうが、陣頭指揮を取っている幹部が必ずいるはずだ。金元弘氏は解任される前、護衛総局トップの尹正麟(ユン・ジョンリン)氏とぶつかり合っていたとの説があるが、金正恩氏は最近、護衛総局を最も信頼しているとも言われる。

国情院は、軍総政治局に対する検閲が、党組織指導部長に最近就任した崔龍海(チェ・リョンヘ)氏の主導で進んでいるとの見方を示している。そもそも筆者は、崔氏のような人物が本当に党組織指導部長に就いたのか懐疑的だ。

どちらにしても、崔氏の党組織指導部長に就任したとの説は、今年初めには出ていなかった。果たして、金正恩体制の深奥部で何が起きているのだろうか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

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