6月2日の韓国統一地方選における与党ハンナラ党の惨敗は日本国内でも少なからず衝撃をもって伝えられた。
当日、鳩山総理の電撃辞任という大きなニュースの中で若干関心は薄れたものの与党有利という事前の世論調査や『天安艦事件』の影響で多くの日本人は対北朝鮮強硬策をとる与党の勝利を予想していたからだ。この意外な結果を日本ではどのように見たのか?
1998年から10年間太陽政策を進めてきた金大中、盧武鉉政権時代に影響を及ぼした『新北勢力』の復活だという説がある。一方では日本でよく使われる言葉『平和ボケ(平和になれすぎて脅威に関して鈍感になること)』に韓国人が冒されているというような声もある。また今流行のツイッターが大きな影響を及ぼしたという説もある。
いずれにせよ背景にあるのは『天安艦事件』から端を発した『第二次朝鮮戦争』に対する不安から対北朝鮮強硬策をとる与党ハンナラ党への拒否感だという見方が大勢だ。
仮に戦争になった場合、もっとも失うものが大きいのは北朝鮮でもアメリカでも日本でもなくまぎれもなく韓国だ。半世紀以上もの間、北朝鮮という脅威と向き合いながらも築き上げた発展が戦火によって崩壊することに対する不安を抱くのは当然だろう。
「天安艦事件は許されない行為だ。しかし北朝鮮との戦争はいやだ」という韓国国民の苦悩が今回の選挙結果に現れているのかもしれない。
しかし、そもそもこういった『戦争の危機』を作り出してているのは韓国政府ではなく一貫して金正日政権だということを忘れてはならない。
北朝鮮は米韓の軍事演習を『朝鮮半島の危機をあおっている』と非難する一方で、テロや軍事挑発という実力行使によって危機を煽ってきた。国際社会の協調や平和を無視して武力の行使で問題解決と延命を図ろうとするその姿勢は『軍国主義』そのものである。我々が向き合っているのは『先軍政治』というスローガンを謳う『ウリ式軍国主義』国家なのだ。いつまでも脅威におびえていては根本的な解決は遠のくばかりでなく逆に脅威が増大するかもしれない。第二次世界大戦前のナチス・ドイツに対する英チェンバレン政権の宥和政策の失敗を教訓とすべきではないだろうか。
日本の中でも与党敗北によって李明博政権がこの2年間続けてきた体北強硬策の修正があるのではという不安の声がある。拉致問題が発覚して以降、経済制裁などで対北強硬策をとる日本からすると韓国との共同歩調はきわめて重要だからだ。また一部では韓国国民に対して『弱腰』や『北朝鮮の脅しに屈した』などと批判する声もある。しかし、最前線で北朝鮮の脅威と向かい合いながら苦渋の選択をした韓国民の選択を「弱腰」と安易に批判するのも無責任と言わざるをえない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面確かに日本は拉致問題やミサイル問題などで北朝鮮の脅威にさらされてきた。しかし朝鮮戦争や過去のテロ、そして今回の天安艦事件で数多くの犠牲者を出してきた韓国からすると北朝鮮の脅威は日本とは比べものにならない。繰り返すようだが北朝鮮との衝突で最も失うものが大きいのは韓国なのだ。安易な『弱腰』論はボクシングで例えるならリングの外でヤジを飛ばしているだけにしか過ぎない。
日本と韓国のこの温度差を解決する唯一の方法は北朝鮮の脅威に対する日韓市民の意識の共有化しかない。
韓国に求められているのは現状維持ではなく北朝鮮の脅威をどうやって解消するかという『勇気ある選択』であり、日本に求められているのは拉致問題のみならず東北アジアの安保に対する北朝鮮の脅威、そして北朝鮮国内の人権弾圧など包括的な視点から対北朝鮮強硬論を論じることではないだろうか。