農場の配給の対象から除外されて極貧の淵をさまよっていた40代の男性が、10代の実の娘を殺して人肉を食べた事件が発生して、両江道では大騒ぎになっているという。人肉を食べたこの男性は、1年前から正常とは思われない言動を繰り返していたという。

脱北者たちは、1990年代半ばに数百万人が飢え死にした大飢餓の時期には、人肉を食べて処刑される事件がたびたび発生したと証言している。だが最近大規模な飢饉は発生していないのに人肉事件が起きたため、この地域の住民たちは驚きを禁じえないでいる。

29日にデイリーNKと通話した両江道の消息筋が、「11月19日に（両江道)プンレSネポ里で、気が触れた父親が15歳の娘を殺して人肉を食べた事件が発生した」と言い、「保安署（警察)に捕まったこの人（犯人)は、『死んだ犬を煮て食べた』と言っている」と伝えてきた。

消息筋によれば、この男性はプンレSネポ里の第2作業班の農場員、イ・クァンホ（44）氏だという。イ氏は保安署に連行された後、「家で寝ていたのだが、急に犬が入って来たのでこん棒で叩いて殺した」、「誰の犬なのかは分からないが、お腹がすいていたので食べた」、「死んでいたので食べたが、悪いことをした」と言うなど、しどろもどろな答え方をしていたという。

消息筋はイ氏の家から血がついた洗濯棒が発見されたと話した。また、釜から発見された遺体の頭がひどく損傷していたため、イ氏が洗濯棒で娘を数回殴って殺害したと推定されると伝えた。

娘の遺体は頭と下半身がひどく損傷していたという。台所の食べかすから骨が見つかり、釜から脚の骨も見つかった。消息筋は「娘の遺体の状態と周辺の証拠品から、遺体発見の2、3日前に殺害されたようだ」と伝えた。

事件はイ氏が酒類を売っている村人の家にやって来て、「うちの家に肉が入ったから、お酒を持って行って一緒に食べよう」と誘い、お酒を持ってイ氏の後について行った隣人がイ氏の家で人肉を見て、すぐに保安署に申告して発覚したという。

イ氏は1年前まで、妻と1男1女と一緒に暮らしていた病弱な父親だった。軍に服務していた時に足に怪我を負い、除隊した（事故にあって除隊する制度で)が病気がちだったため、農場の作業班で牛の世話をしながら貧しく暮らしていた。

昨年の3月に食糧難が悪化し、妻と息子が肺結核にかかって死亡してからイさんの言動に不可解な点が見られるようになったという。イさんは農場で牛の面倒を見ることもできなくなった。その後、イさんは農場の配給対象から除外されてしまった。

イさんの隣人によれば、イさんは半年ほど前までは変わった行動をとっても、娘だけはとても大切にしていたという。娘も貧しかったため上の学校に行けずに、父親のために山菜や薬草を採って辛抱強く暮らしていた。

消息筋は「この人は娘を生かすために、日中に農場の畑に入ってジャガイモを盗もうとして農場員たちに打たれるなど、苦労も並大抵ではなかった」と述べ、「おかしな言動がひどくなって農場で仕事もできなくなり、個人の副業の農業もできなくなって、生活が非常に苦しくなったそうだ」と話した。

イさんは病状がさらに悪化して、娘を犬と間違えて殺してしまったという。

両江道の複数の消息筋も「両江道で人を食べたといううわさが、もう中国でも広まった」と言い、「鴨緑江に出れば中国の人たちが『人を食べた事件があったというが、事実なのか?』と聞いてくる」と伝えてきた。

両江道と中国の長白県の境を流れる鴨緑江の幅はわずか数メートルだ。

一方、今回の事件と関連し両江道の住民の間では、「国家（北朝鮮政府)が人を食べさせた」と憤りの声が高まっている。言動がおかしいからといって配給対象者から除いて飢えさせたので、娘まで食べる事件が発生したと政府を難詰しているという。

この事件について司法当局は、「（人肉事件に関して)無用なうわさを流さないように」と住民に警告している。

両江道では以前も、人肉を食べる事件が何度か発生していた。

1995年にカプサン郡オイル里で、11人の婦女子を殺害して人肉を食べた父親と息子が検挙された。また同じ頃、ポチョン郡シンフン里や三池淵郡のチュンフン農場などで食糧難に苦しむ住民たちが人肉を食べる事件が相次いで起きた。

特に、1997年7月にはデホンタン郡で人肉を食べた容疑で、村の住民18人が処罰された事件も起きた。殺人を犯した人は外部の人を拉致して人肉を手に入れ、周りの人たちはその人肉を犬の肉と思って食べたという。この事件で殺人を犯した人は処刑され、残りの17人には最高10年から2年までの教化刑（刑務所）が言い渡された。