脱北者の高齢化の問題も深刻だ。脱北者にとって中国公安は獅子よりも恐ろしい存在だが、60台以上のお年寄りまで逮捕して送還するケースは稀である。そのため、90年代後半に40~50台で国境を越えた女性の中には、中国で還暦を迎えた人もいる。この人たちは死んでも葬ってもらえる所がないと訴えている。
北朝鮮に自ら帰って自首したら、子供たちの将来に支障が生じることになるが、中国で余生を送る浮き草のような自分の存在がひどく悲しく思われるのだ。脱北して、延辺自治州で中国人の男性と結婚した女性が一番多く集まっているという汪?県で会った脱北者、ハン・ウォルニョさん(仮名.62歳)は、「死んでも川を渡った人というレッテルがつきまとう」と泣きながら語った。
「96年に中国に初めて来ました。それまで3回捕まって(北朝鮮に)行って来て、もう年を取ったから中国の派出所も私を捕まえて連れては行かないでしょう。もう私の体もあまり動かないから、仕事もできないし朝鮮の子供たちにお金を送ってあげることもできなくて……。去年、私より一つ年上の朝鮮のおばさんが亡くなったのだけれど、派出所では月境者だと言ってそのまま火葬してしまったんですよ。戸籍があれば死亡証明書を出すことができると言って。死亡証明書があれば墓地を使うことができるけれど、私たちはそれもできません。死んだらそのまま焼いてしまって。遺灰を川に撒くのか山に撤くのか分かりません。豆満江に撤いてくれたらありがたいけれども……」
北朝鮮の住民たちが「不法越境者」の身分で中国に集まるようになってから15年は経つ。韓国に行くことに成功して、新しい人生を始めた人もいるし、北朝鮮に送還されて飢えや拷問で病死した人もいる。モンゴルの砂漠やベトナム、ラオスの密林で亡くなった人はその名前も、その数も分かっていない。
そして現在、依然として多くの人が「朝鮮で生まれた罪」を後悔して、次の世代に続く厳しい異郷での暮らしに疲れきっている。北朝鮮の住民の脱出の行列は今も続いている。北朝鮮社会が根本的に変わらない限り、終止符を打つことができないこの悲劇の前で、私たちが担わなければならない責任は何だろうか。(終わり)